「最古の酒」を巡る研究の疑問。発酵工程がどうなってるかは省いてはいけないのでは…。

最近ちょこちょこ探していた「古代の酒」に関する論文、世界最古の酒を見つけました! と1万年くらい前の年代をぶちあげてくるものがが何か怪しいなぁと思いながら見ていた。

いや、農耕が開始されている時期で、それなりに人口規模のある地域でなら、酒造りが始まっていてもおかしくないとは思うんだ。
ただ、「酒造りの証拠」として挙げているものが証拠としてはあまりにも貧弱なケースが多くて、ちょっとな…という感じ。

●前提条件
食べ物は、放置してたら勝手に発酵します。


発酵も腐敗の一部である。
もっと言うと、腐敗と発酵の違いは、人間がコントロールしているかどうか、そしてコントロール内で好ましいタイミングで腐敗が停止するかどうか、だけなのだ。
なので糖分を含む作物と水と一定の温度さえあれば、ほっとけば勝手に発酵する。そして発酵しすぎると発酵を行った菌が死滅して、嫌な匂いや味を発生させる。また、酵母菌など狙った好ましい菌だけでなく、望ましくない雑菌が繁殖して、アルコール以外の排泄物を出してしまう可能性もある。

なので、酒造りが行われていた、と言うためには、望ましい菌で意図的に腐敗を行わせていることという条件が必須になる。

逆に言えば、勝手に腐ったものは、結果的に酒になっているかもしれないが、酒造りを行っているとは言えないのである。


■例
墓の中の壺から穀物の発酵した形跡が検出された。これは酒が作られていた証拠といえるか。

 →言えない。壺の中に穀物を詰めた副葬品に水分が入って腐敗した可能性があるから。
  壺と杯が同時に出土したとしても、杯単品で意味を成すため、関連付けるのはただの空想になっているかもしれない。


「偶然腐ってしまった」とか「たまたま穀物を入れていた壺に水が溜まった」といった可能性を否定するためには、墓の副葬品から特定するのはおそらく困難だ。全ての墓に必ずお酒を入れるわけでもないだろうし、壺+穀物という組み合わせだと、雨の多い地域では中に水が侵入することは避けられないので大抵腐るはずだからだ。


では、どうすれば酒造りの証拠が見つけられるのかというと、一番いいのは「道具」や「酒造りの現場」を見つけることである。
古代エジプトのビールづくりの証拠などは、ビールを作っていた工房跡が見つかっているので分かりやすい。酵母菌の活動のためには、適切な温度を保つなど、環境を整えることが大事になる。その環境と道具がしっかり見つかっていれば確実といえる。また、ビールづくりには麦芽が必要なので、ただの麦ではなく発芽させた状態の麦芽が一緒に見つかればベスト。


ぶどうから作るワインの場合は、ぶどうを絞ってほったらかすだけで勝手に発酵するので道具が見つかりにくいが、ぶどう汁とぶどう丸ごとでは出てくるものが違うので、壺の中にぶどう汁だけ入っていたことが証明できれば、ワインを作っていたと考えていいと思う。

米の場合も同様で、籾殻が一緒なのか、精米したものかである程度判断はつくと思うが、米だけ水につけても発酵は厳しいので、麹を使っていたかどうかが肝になると思う。というか米の酒の場合はどう頑張っても小瓶でちょろっと作るのは無理なので、おそらくビール以上にがっつりとした酒造り工房を構えないと作れないと思われる。工房の遺構が出れば確実で、そうでないなら単なる腐敗の可能性を疑ったほうがいいと思う。


発見物の最古競争はしばしば見かけるものだけれど、さすがになー、見た瞬間「その証拠じゃ厳しいのでは」って思っちゃうのもなー。
耳目を集めたくて飛ばすのも、ほどほどに…。

[>おまけ

エジプト・アビュドスで世界最古のビール醸造施設を発見!→最古じゃないです。
https://55096962.at.webry.info/202102/article_14.html

現代的なビールの起源は16世紀から。ホップ使用の歴史と最近の研究
https://55096962.at.webry.info/202102/article_20.html