コプト教のお正月は9/11だけど、古代エジプトのお正月は9月じゃない。という話

コプト教のお正月(ノウルーズ)は9/11である。

古代エジプト暦を受け継いでいる、と説明されることもあるので誤解している人もいるかもしれないのでちょっと説明しておきたい。
コプト暦は、正確には「古代エジプト暦を元に3世紀に設定されたもの」なので、みんなが想像する、ツタンカーメンなどの生きていた時代のいわゆる「古代エジプト」の暦ではないのだ。

詳しい話はむかしこっちにまとめたんだけど、読むの面倒くさい人むけにザックリまとめておく。
http://www.moonover.jp/bekkan/today/info.htm



●もともとの古代エジプト暦は「うるう日なし365日固定」かつ「ナイルの増水基準」

実際は365日ではなく余ってる時間があることを知りつつ、「暦は神に与えられたものなのでいじれない」という宗教上の理由をつけてザックリ365日で設定し、ナイルの増水の始まる7月末を新年と設定。
当然、4年ごとに1日ずつズレていく。約1452年に一回しかきちんと季節と一致しない暦を延々と何千年も使い続ける。
ただし、それだと農業に支障をきたすので、民衆暦という別の暦で調整。



●「閏日導入しようぜ!」→失敗

プトレマイオス3世の時代に、うるう日を導入しようとするものの、一代限りでポシャる。調整された紀元前246年は例外的に一年がやたら短い。その後、古代エジプトの暦はギリシャの暦と併用で、うるう日なしのままで運用され続ける。



●ローマ属州となり、アレキサンドリアの学者たちによって考案された「ユリウス暦」を導入

紀元前30年、エジプトはローマ属州となる。
そのあと、ローマ帝国が、それまでバラバラだった支配地域の暦の統一に乗り出して、エジプトでもユリウス暦が導入されている。ただし元の暦を大幅に変えると反発を食らうので、導入する時期をもともとの古代エジプト暦と合わせるなど、配慮した痕跡が伺える。
ユリウス暦は現在使われているグレゴリオ暦よりも一年が若干、長い。 そのため、およそ100年で1日ズレる。
現在は13日ほどズレており、ユリウス暦8/29=グレゴリオ暦9/11。



●コプト教がユリウス暦をベースにしたコプト暦の運用を開始

コプト暦の「元年」は紀元後284年。
コプト教とは、エジプトに伝来した初期キリスト教が土着宗教と一部混じり合って誕生した、エジプトVerのキリスト教。ローマを頂点とする教会組織には属しておらず、いわゆる「正教系」になる。
独自の暦だがユリウス暦の数え方をベースにしていて、月の名前など一部が古代エジプト暦のままになっている。(たとえば「ハテュル月」の元は「ハトホル月」)

ここで、現在知られている「コプト暦」が誕生する。

ここまでの変遷を追ってきて分かるように、コプト暦は古代エジプトの暦を元にはしているものの、実際には時代を経て改変されている別ものであることが分かる。というか、ベースはユリウス暦なので、「古代エジプトの暦を元にしている」とは言えるが、「古代エジプトの暦である」とは言えない。そもそも開始が3世紀だしね…。



余談だが、キリスト教の中でも「我らこそ正当」を名乗る正教会系の宗派では、より古い暦であるユリウス暦にこだわって、今も使い続けているところが幾つかある。エジプトのコプト教やエチオピア正教もその一つ。

そのへんの話は暦の本にガッツリ出てくるので興味がある人は資料を読むのをオススメしたい。

暦の大事典 - 岡田 芳朗, 神田 泰, 佐藤 次高, 高橋 正男, 古川 麒一郎, 松井 吉昭
暦の大事典 - 岡田 芳朗, 神田 泰, 佐藤 次高, 高橋 正男, 古川 麒一郎, 松井 吉昭