人は何にエロスを感じるのか。古代人の「ヴィーナス」の変遷と現代の進化について

少し前にこんな実験があった。
ランダムに組み合わされていく色と形の中から、少しでもエロスを感じるほうを選択していくうちに、だんだんエッチなものの定義が固まってゆく、という実験だ。

「遺伝的アルゴリズム」でエッチな画像を作る紳士的実験が注目集める 抽象的な図形が学習の末におっぱいへ進化
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2101/14/news142.html

最初はただのモザイクタイルだったものが、人肌の色のタイルを集めているうちにいつしか おっぱい爆誕、さらにそのうち顔や手足が生え、女体として進化していくさまはnoteにもまとめられているので是非ご一読を。

「遺伝的アルゴリズムで最高にエッチな画像を作ろう!」がGoogleに怒られた話
https://note.com/ultrmrn_chicken/n/nd930bfd6260c

生成の順番は「おっぱい」→「頭部」→「胴体」→「足(股)」→「手足」となっており、現代の大多数の日本人の中にあるセックスシンボルの優先順位もおおむねこの通りだろうと思っている。つまりおっぱいは断トツでセクシャルな器官であり、女性性の象徴と見なされている、ということだ。

しかし、古代人にとってはそうではなかった、と私は思う…おっぱいがエロいと覚えるまでには、多数の試行錯誤があったのだ。


と、いうわけで、ここからいきなり 三万年前の話をしたい。



人類が「像」という工作に目覚めたのは、ヨーロッパでは3万年ほど前のことだった。

当時は寒冷な時期で、少し暖かくなる間氷期を挟みつつ、現代より平均で6度ほども寒い時期もあった。寒い時期に閉じこもっていると何か手作業したくなる、というのは人間のさがのようなもので、今年のコロナ自粛の巣ごもりの中でも手芸に目覚める人は多くいた。

引きこもり生活と洞窟の絵。~脳はアイドリング出来ない
https://55096962.at.webry.info/202012/article_10.html

おそらく最初は、寒い時期に引きこもっている間に暇を持て余した誰かがマンモスの牙や柔らかい石をこちょこちょ削っていたのだろう。
そのうちに芸術と呼べるようなものが生まれてきた。

ただし、初期の頃にはエロさがない、というか未熟である。
そして何を作ろうかまだはっきり定まっておらず、人体らしきもの…といった形態のものが見られる。こんな感じだ。

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動物については3のように写実的に作れているのに、人間を作るのは難しかったようだ。
4はおそらく天才がいて、何か自分の作りたいものにひらめいた瞬間があったのだと思う。
1や5などは作りたいテーマがぼやけている。


その後、「ヴィーナス」と呼ばれる独特の女性像の様式が確立していく。我々がよく見かける古代のヴィーナス像は大抵ここに属している。これはグラヴェット文化と呼ばれ、似た様式が西ヨーロッパから東シベリアあたりまで広がっている。

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おっぱいと尻である。

極端に大きな丸みを帯びたお尻、突き出した大きなおっぱい。顔や手足はわりとどうでもいい。
像を刻むというスキルを獲得した人類に最初に「女体像を作りたい」という衝動を引き起こさせたものは、おっぱいと尻であった。面白いことに初期の像からして、「おっぱいの大きさはどのくらいがいいのか」「おっぱいは多いほうがいいのか、現実のように2つにしておくべきなのか」といった様々な試行錯誤が見られる。

この試行錯誤は、像を刻むスキルとともに瞬く間に広まっていくことになる。

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面白いことにシベリア方面にいくとスレンダー好みが優勢になる。
実際に痩せた女性が多かったのかもしれないが。

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この編年表は「グラヴェット文化」と呼ばれている区分がどのあたりにあるかの目安。

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ヴィーナス像の進化と衰退の系譜。
像を刻むというスキル自体は継続されるが、寒すぎる時代が終わる頃には、この様式の像は廃れていく。
というかこの像はメインで使っていた材料が象牙(マンモス牙)だったようなので、もしかしたら、マンモスが減って材料が変わったことで、別の様式にシフトせざるを得なかったのかもしれない。

このグラヴェット文化を通じて人間は、何に「情動」―エロスを感じるのか、という意識も獲得したと自分は思う。
棒に顔をつけてもあまり感情は動かないが、おっぱいがついてると何かを感じる。棒が二股に分かれているとムラムラする中学生男子みたいな感じの本能的なアレ。

人間もまた動物である。手間暇かけて何かを作るからには、それを求める内的な衝動が必ず存在する。
単純なエロでは片づけられない、情動としか呼べない感情。何かを作りたい、出来上がったものを見たいと思う心。

現代でイラスト描いてる人とか、フィギュア作ってる人の心の中には、誰かのためとかよりまず最初に、自分のため、自分が欲しいという感情があるものと思う。残された膨大な数の「ヴィーナス像」は、古代の人々が欲した欲望そのものなのだ。そして現代の我々とも多くの部分が重なっている。だから理解出来る。古代人が見てイイと思うものは現代人が見てもイイ。ま、ちょっとした好みの差はあるけれど。


――ただし、どんな時代にも特殊な性癖(もしくは高度過ぎて理解が追い付かない)という作品は、存在するのだが。


以下に、高度な理解を必要とする「ヴィーナス像」三種を上げておく。
最初に言っておくが、これらはすべて「ヴィーナス像」として分類されている。


●コーンヘッド・グラマラス

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なぜか不思議な魅力を放つエロス。コーンヘッド部分の作り込みから、これが失敗作ではなく、「顔など飾りです。エロイ人ならそれが分かるんです」とでも言わんばかりの芸術家の強い意思を感じる。高度に象徴化されすぎて理解が追い付かない。


●穴あきタイプ

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おそらく下の部分に何かこう…浮彫的な…いや違うな。なんだこれ。なんか人の姿を刻もうとしたっぽい雰囲気はあるがよく判らない。
首に提げるなどして持ち運べるタイプのものを開発しようとしたのかもしれない。


●棒

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ただただ分からない。
ちなみにこれ失敗作ではなく本当にこういう様式らしい。同じようなものが複数見つかっているらしい。
人類の進化がここに追いつくまでには数万年では足りなかったと思われる。


以上である。
他にもよく判らないものや面白い形をしたヴィーナス像などもあるが、やはり特徴的なのは、おっぱいと尻(股)。ヒトは芸術とともにエロスを知り、その衝動が更なる芸術様式へと昇華されてきた。

忘れないでほしい。人類を動かすものは、常に本能的な情動であったと。
思い出してほしい。人類が獲得してきた高度なスキルは、一見くだらなく見える無数の試行の果てに得られたのだと…。


「おっぱいがエロい」ということを覚えるために人類は、幾多の像を刻んできたのである。ここ最近の人類史三万年の歴史の成果なのである。


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図の出所はここ

人間を高次な生物たらしめているものの一つが芸術であるならば、その出発点は忘れてはいけない。
情動こそが文化をつくるのだ。

グラヴェット文化のヴィーナスの像―旧石器時代最大の美と知のネットワーク― (ユーラシア考古学選書) - 竹花 和晴
グラヴェット文化のヴィーナスの像―旧石器時代最大の美と知のネットワーク― (ユーラシア考古学選書) - 竹花 和晴