北米最古の飼い犬の骨の発見と、人類が北米に到達した年代の予測

北米の北西部海岸沿いで1万年以上の前の犬の骨が発見された、というニュースを見つけて、また年代が繰り上がったのかーと思いながら情報を探してみた。これは人によって飼育化された「イヌ」の骨であるため、人間と一緒に北米に入ったとするのが一般的な見方だ。つまり、人間の骨が見つからなくても、イヌの骨が見つかれば、その地域に、その年代にすでに人間がいた可能性が高くなる。

しかし写真見てちょっとびっくりした。
こんな大きさの骨のDNAを分析して、生物を特定できる時代になったのか…。

Remains of oldest American dog bolster idea that first humans arrived along the coast
https://www.sciencemag.org/news/2021/02/remains-oldest-american-dog-bolster-idea-first-humans-arrived-along-coast

doga.PNG

大元の論文がこちらで、もう少し詳しい情報が出ている。
(論文にはoldestという言葉は使われておらず、an earlyとなっているが、このほうが妥当といえる。いま見つかってる中では最古でも、明日それより古いものの発見があるかもしれないのがこの業界なので…)

An early dog from southeast Alaska supports a coastal route for the first dog migration into the Americas
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2020.3103

rspb20203103f01.jpg

骨の見つかった場所はピンク色のマーキングのされている箇所。図の右側のほうにある凡例で、色によって年代がわけられている。また、印の形はハプログループ、すなわち遺伝型による分類。Clade(クレード)A2aというのが最も古く、A2bがそこから分岐してさらにA2b1,2,3と続く。
A2aはシベリアの古い犬の遺伝子。今回見つかった犬はA2b1に所属するが、このグループは1万6千年ほど前にシベリアから分離している。

図でいうと●で示された場所が同じタイプの遺伝型を持つ犬の発見場所なので、線でつなぐと、この犬を連れて移住した集団がどう移動していったのかがうっすら見えることになる。灰色の●で示された五大湖の下あたりの発見が繋がるとすれば、海岸ぞいからだんだん内陸のほうに入っていったのだろう。

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で、↑これが遺伝型の分岐図。コロナウィルスの亜種が出たときに散々ニュースでも流れていたのでこういうの見たことある人は増えたと思うが、ヒトでもイヌでも病原体でも、遺伝子を持つものは、その差異の大きさによってこんな感じで相対的に変化の順番と時期を位置づけられる。変化していく速度はだいたい一定だからだ。ピンク色の線が今回発見された犬の位置づけ。シベリアの犬の集団から分岐した中でも、かなり早い時期にいることがわかる。

また面白いことに、この犬の骨の同位体分析により、生前に食べていたものは海産物が多かったはずだという話も出ていた。
氷河期がまだ終わっていない時代に北米まで移住するとしたら、植物はほとんど利用できなかったはずで、海産物に頼っていたのではないかというのが今の説なのだが、それを裏付けた形になる。

これらの研究もあり、最近では、北米への人の移住は1万6千年ごろまでは確実に遡るはずだというのが定説になっている。
少し前まで1万5千年が合意ラインだった気がするんだけど、ちょっと古くなったかな…まあ年々変わっていくものなので。このあたりは。

それにしても、こんな小さな犬の骨のカケラから、これだけの情報が引き出せる時代になったとは、技術の進化は恐ろしい。
一昔前には超能力で片づけられてたサイコメトラーの領域がもう近いんじゃないかって気もします。

なお注意点として、この研究は、犬の骨が出て来たからといって、必ずしもそこに飼い主のヒトがいたことを示すものではないし、逆に、犬の骨が出ない地域にヒトがいなかったことを意味するものでもない。
移住する際に絶対に犬を連れて行かなければならないという理由はないし、連れていったとしても食べ物がなくなった時は真っ先に犠牲になるはずなので、その後どこかで犬の系譜が途切れてしまう可能性はある。

その点には注意しておきたい。


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おまけ

アメリカ大陸に人類が到達したのは3万年前、定説を覆す!→覆ってないです…。
https://55096962.at.webry.info/202007/article_20.html

このへんも参照。