プトレマイオス朝のファラオたちの王名と伝統の変化について

古代エジプトの王たちには五つの名前がある。
即位名(即位したときにつく名前、王名)と誕生名(生まれた時から持っている名前、本名みたいなもの)が有名だが、それ以外の名前ってどうなってるんだっけ…
と調べてみた結果、プトレマイオス朝の王たちはだいぶ伝統が崩れてる感じで面白かったので、ちょいメモしておこうと思う。


◆アレキサンダー大王

ホルス名 メク・ケメト(ケメト=エジプトの古名。エジプトの国の守護者)
二女神名 知られてない
黄金のホルス名 知られていない
即位名 セテプエンラー・メリアメン(ラー神によってえらばれし者、アメン神を満足させるもの)
誕生名 アレクセンドレス ※エジプト語訛りになってる

王名としては即位名になるので、当時のエジプト人には「新しい王様はセテプエンラー・メリアメン陛下だよ!」と公布されたはず。


◆フィリッポス・アリダイオス

ホルス名 ク・タウィ(二つの土地の守護者 二つの土地=上下エジプトのこと。)
二女神名 ヘカ・カスゥト(異国を支配する者)
黄金のホルス名 メリィウ(愛されし者)
即位名 セテプエンラー・メリアメン(ラー神によってえらばれし者、アメン神を満足させるもの)
誕生名 ピルプウス

ヒクソス人の別名でもあったヘカ・カスゥトが王の名前に入っているというのが面白い。

◆プトレマイオス1世

ホルス名 ワァペフティ・ネスゥケニ(強き者にして勇敢なる王) 
二女神名 イティエンセケム・ヘカチェエル(彼自身の力によって掴む者、Sileの地を統べるもの) ※Tielの地名解釈について諸説ある
黄金のホルス名 知られていない
即位名 セテプエンラー・メリアメン(ラー神によってえらばれし者、アメン神を満足させるもの)
誕生名 プトウルミス

◆アルシノエ2世

即位名 クネメトイブ エンマアト・メレトネチェルゥ(彼女の心臓は真実なり、神々に愛されしもの)
誕生名 イルシナアト

ちょっとだけ統治してた女王、プトレマイオス1世の娘。
この人も即位名持ってたんだ…? 的な感じ。陰謀とか色々やってたわりにお名前は…。


◆プトレマイオス3世

ホルス名 ヘケンネチェルウ・レメティハァエフ(神がその上にいる人、民の歓喜せし者)
二女神名 ケン ネチェティ ネチェルウ・イネブメネク エン タ メリィ(守護の神々に愛されし者、タ・メリの強力な壁 ※タ・メリ=エジプトの別名)
黄金のホルス名 ワァ・ペフティ、イル アクゥト、ネブ ヘブ=セド ミ プタハ タチェネン イティ ミ ラー(良き事を成す者たちの中で最も強力なる者、プタハ=タテネン神のごとくセド祭を司り、ラーの如く主催するもの ※セド祭り=伝統的な王位更新祭)
即位名 イワ エン センウィ ネチェルウィ、セテプエンラー、セケムアンク・エンアメン(神なる二人兄弟の相続人、ラーに選ばれし者、アメン神の如く生ける者)
誕生名 プトウルミス

ノリが完全に寿限無。
このへんからプトレマイオス朝の王名がどちゃくそ長くなっていき、盛り盛り感が溢れる。
なお、ホルス名については別バージョンもあるが、長くて面倒なので気になる人は自分で調べてね。


◆クレオパトラ1世

ホルス名 フネト サト ヘカ、イレト・エン・ヘカ、メレト・ネチェル・バケト、ヘケレト・エン・クネム、チャテト、サト・ジェフティ、ウェレト・ペフティ、セヘレト・タウィ、レディ・エン・エス・ネブティ、レキエト・エン・ネフェルウ、ケニ・シィ・ネト・ネベト・サウ、チェニ・シィ・ハトホル・エン・メルト・エス(訳は面倒になったので省略)
誕生名 クルゥ・パ・ドラ

名前書くだけで死ぬwwwwwww
色んな神々の名前を盛り込んで守護全部載せみたいな感じになっている…。

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ここからの考察

プトレマイオス朝の王たちは、ある時期からいきなり名前がどちゃくそ長くなっていく。これは称号を長くすることで権威を持たせるギリシャ的な発想からではないかと思われる。古代エジプトでは王であることそのものが権威なので、名前は別にそんなに長くしなくていい。というより、長いと書類や碑文に書けないため、ある一定の長さまでで押さえられていた。
名前がやたらと長くなったことは、名前が形骸化してあまり頻繁に使われなくなったことを意味していると思う。
アレキサンドリア市民たちが王を呼ぶ時にニックネームを使っていた、という文化と合わせて考えると面白いかも。

また、途中から即位名ではなくホルス名のほうが重要になっていくらしいことが読み取れる。
おそらくエジプト風に即位名=王名とするのではなく、生まれた時の本名のままで即位するようになったので必要なくなったのだろう。

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◆クレオパトラ7世

ホルス名 ウェレト・ネベト ネフェルウ・アケト セフ(偉大なる者、完全して壮麗なる礼拝所(?))
二女神名 知られていない
黄金のホルス名 知られていない 
即位名  知られていない
誕生名  クルゥ・パ・ドラ

いちおう、最後の女王も挙げておく。
このあたりになると短い方向に戻ってきている。これ以降の時代、ローマ属州時代になると、ホルス名も消えて即位名=ローマ皇帝名として扱われるようになっていく。


プトレマイオス朝の王たちは、古代エジプトの伝統を汲んではいたものの、内容的には完全に踏襲していたわけではないことが、名前の付け方からしても見えてくる。