タイトルからまた大きく出たな? って感じだけど、ほどよくまとまっていた「メソポタミア全史」

人文科学の世界って10年も経てば常識や定説がガラっと変わることは珍しくないので、「xx全史」みたいな大きなタイトルはつけないほうがいいんだよな…とは思ったけど、内容を分かりやすくするなら確かにこのタイトルで間違いではない。書いているのはシュメールが専門の競馬が大好きな先生。なのでハンムラビやサルゴンの話をしたあとあとがきでコントレイルの話が出て来るというわけのわからないことになっている。しかも違和感が仕事しない。
まあ今のご時世、コントレイルと一緒にアリストテレスって名前の馬やファラオが走ってたりするからね…。

古代メソポタミア全史-シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで (中公新書) - 小林 登志子
古代メソポタミア全史-シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで (中公新書) - 小林 登志子

載ってる内容の構成はこうなっている。実際は章ごとに載っていない勢力についての言及もあり、薄いわりにだいぶ詰め込んだ濃い内容になっていて、初心者ついてこられないのでは?? とかちょっと思った。が、メソポタミアの歴史を最初から最後まで流してくれている本は意外と少なくて、シュメールとかアッカドとか単語知っててもそれがいつの時代のどこの場所のことなのかイメージ出来ず、漠然と「イラクのあたりでしょ」みたいな感じになってる人はよく見かけるので、地図と年表いりなのは良いところだ。

Image1.jpg

またメソポタミアの歴史は、当然ながらメソポタミア単体で語れるものではない。
隣にエジプトあるし、ミタンニやヒッタイト、アッシリアといった勢力が台頭しては衰退していく繰り返しだ。この本ではエジプトの登場が第塗湯王朝からで、初期王朝の部分が出てこないし、最近言及されるようになったインダス文明との交易についても特に触れられていない。全てを網羅しているわけではないが、海の国などマイナーでほとんど出てこない勢力も出て来ていたので、限られたページ数の中で頑張ってる感はある。

あと、新アッシリア滅亡後のパルティアやローマ、ビザンツにサーサーン朝まで流してくれていたのはちょっと驚いた。いや、本来は歴史は現代まで繋がっているものなので、そうなるのは当然なのだけれど…自分の専門分野離れたところは全く見てない研究者結構いるので…。(古代エジプトやってる人だと、プトレマイオス朝以降のローマ支配→ビザンツ→イスラーム勢力への接続を全然知らない人を結構見かける)


著者がメソポタミア専門なのでエジプトや周辺国の記述はちょっと違うかなぁ…というところもあって、たとえばツタンカーメンの短剣は最近、隕鉄性だと解析されたし、鉄器製造技術がヒッタイト滅亡によって周辺に広まったという説は否定されつつあり、鋼は偶然出来ただけで量産する技術は無かったというのが今のところの説になっている。逆にメソポタミアのほうは自分はそこまで詳しくないので特に違和感は感じなかった。

このテの概要書の場合、どうしても論争になっているホットな話題の差異が出たり、最新の研究の取り込みが間に合わないことはあるので、全部が全部正しいと思わずにあらすじをなぞる足がかりにするのが良いと思う。時代の流れさえ判ってしまえば、それぞれの章の内容は、その部分だけの専門資料を当たったほうが細かく判るので。あと、最初にも書いたように、人文科学の世界は10年もすれば定説が変わるものなので…。