お米にまつわる東アジアの神話伝承 稲作とイヌの不思議な関係 

中南米のトウモロコシやアジアのコメ、アフリカのイモなど、世界各国には、主食となる作物をもたらした神様にまつわる伝承がある。
その中の一つに東アジアの「コメはイヌがもたらした」というものがあり、何だか不思議な感じになっていた。

これは中国の少数民族の一つで雲南省に住むハニ族に伝わる伝承。

「洪水のあと、大地は何もない状態になってしまった。小鳥が稲穂を一本ひろってきた。犬が吠えて小鳥を追い払い、稲穂をくわえて人間のところに持って来たので、人間は稲を取り戻すことが出来た。」

先のほうは、一度失った稲作を取り戻したというニュアンスのお話。もう一つは稲作自体が犬からもたらされたというお話。

「まだ人々が作物を作ることを知らなかった時、女神が天から五穀を持ち出して人間に育て方を教えてくれた。しかし女神の父は許可しておらず、罰として犬の姿に変えられて地上に落とされてしまった。いらい、犬は女神の化身したものとして崇められるようになった」

ハニ族は羌族から分かれて移動してきたと考えられている部族で、稲作を覚えたのもその頃だろうという。おそらく民族の起源と何か関係した神話なのだと思う。彼らは紅河(ホン川)の側に住んでいるので、洪水の神話は実際に起きた災害の記憶だったかもしれない。面白いと思うのは、稲作と結びつけられているのがイヌだというところだ。イヌといえば、南米やエジプトで見られるような「死者の魂の導き手」、あるいはメソポタミアや東地中海で見られるような「医療神の随行者」という神話が多くて、穀物、しかも米のイメージは全然無かった。(猫ならネズミを退治するのでまだ分かる。実際に「猫」という漢字はけもの偏に「苗」。)


この「イヌと米」のイメージは、実はハニ族だけではなく近隣の部族にも広がっているらしい。

"大林大良は、中国の研究者が調べた事例により、稲などの作物の趣旨を「もたらした者は犬」である伝説ほもつ中国の少数民族にチワン、プ、トン、スイ、チベット、イ、リス、ラフ、チンポー、アチャン、ミャオ、トウチャ、コーラオ、プーランをあげている。伊藤清司は、「犬の穀物将来伝説は雲貴高原一帯ばかりでなく、その分布は湖南・広東・四川の各省、チベット族自治区などに及んでおり、伝承民族もひとり苗族にとどまらない」と、犬の穀物栽培起源説が広範囲に存在していることを指摘している。

「東ヒマラヤ 都市なき豊かさの文明」(京都大学学術出版会)"


東ヒマラヤ 都市なき豊かさの文明 (環境人間学と地域) - 和雄, 安藤
東ヒマラヤ 都市なき豊かさの文明 (環境人間学と地域) - 和雄, 安藤

焼き畑や棚田といった山に結び付く稲作を行う民族と犬が結びついているあたりに、何かヒントがあるのかもしれない。またどうも中国とインドの国境に近いインド側の民族も同じような伝承を持っているようなので、中間のミャンマー北部も探せば似た伝承はあるのかも。

あと、この犬の神話もそうだけど、アジアのお米の神様って女神が多いなという印象。タイもお米の神様は女神様。日本もオオゲツヒメが稲の起源とすると女神になるかなと。
アジアの穀物の起源神話を集めて分類してみると、何か面白いことが見えそうな気がするのだが、どこか研究してる人はいないかなぁ…。