天空の国チベット ~青蔵鉄道に乗ってみた

中国・青海省からチベット(自治区)の首都ラサへ続く、青蔵鉄道。日本でもファンは多いという。最高点の駅は5,000mを越えており、世界で最も高いところを走る鉄道だ。
飛行機に乗りたくないという理由でこの鉄道でのアクセスを選んだのだが、…ラサ入りするにはツアーでなければ不可能(※まっとうな手段で行く場合)で、旅程やホテルが決まっていないと入域許可書が下りない上に、外国人がこの切符を直接購入することは現状、ほぼ不可能である。そして列車に乗るにあたり、写真撮影禁止の場所が沢山ある。
そのへんは現地でガイドについた人から聞くことになる。

尚、禁止の場所で勝手に写真をとるとガイドさんがガイド許可をはく奪されて露頭に迷うことになる(かもしれない)。
中国では、お国の意向が最優先で個人の権利など考慮されない。


というわけで撮影禁止ではない駅構内の様子とか。
西寧側の駅はとりあえず、撮影禁止ではなかったが、そこらへんに公安の人がウロウロしていて、彼らは撮影禁止なので。なかなか気を遣う。

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駅構内はだだっ広く、売店も幾つかある。
また中国ならではの給湯所があり、現地の人たちがデカいカップラーメンをそこかしこですすっている姿を見かける。中国人、何であのマズいカップラーメンを完食できるんだろう。日本のやつのほうが圧倒的にうまいよ? サイズ小さいけど。

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駅のトイレはきれいに掃除されている。
ただし紙はない。中国の公衆トイレはレストランの中でもない限り紙がないので、日本から持っていくのは忘れないように…。


時間になると改札が開く。
改札内も撮影禁止のところが多い。列車本体は撮っていいけど、ホームの写真などはダメとか。監視カメラの位置を知られたくないとかだろうか。ホーム上は警備の人がウロウロしているのでさくっと車内に入ることにする。

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今回は一番お値段の高い軟臥(ベッドやわらかめ、1室4ベッド)。
ちなみに黒塗りにしたところには、自分のパスポートNo.や名前が書きこまれていて、入り口でパスポートと合わせてチェックされる。つまり転売などは出来ない。旅行ガイドでは、車内で切符引換券と交換されるというような話もあったが、そのような対応はなし。切符は入り口でチェックされたらその後は見せる機会も特になかった。
中国は何でもトップダウンで頻繁にルールが変わるので、当日の現地の指示に従うほかない。

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車内はこんな感じ。コンセントは2か所。
1か所は廊下の折りたたみ椅子のすぐ後ろ。座って景色を眺めながら充電できる。

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もう一か所は個室内のテーブルの脚の部分。
ここは差し込みにくい上に、ここのベッドを使う人に声をかけないといけないので使いづらいかも。

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また酸素吸入器も枕元にあって、5,000m近くなってくると車掌さんが乗客の間を周って死にそうな人がいないかチェックしてくれる。
死にそうな人がいると、ここからチューブで強制酸素注入。
ランプもついているが、明るすぎるうえに光の方向が調整できないので、夜中にトイレに起きる時などは懐中電灯などがあったほうが手元が便利。トイレ内や廊下は夜でも明るい。

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冬は巡礼シーズンで、乗ってるのはほとんどが地元民のため、食堂車はすいていた。
面白いことに食堂車には菜園のようなものがあり、プランターに青菜が並べられている。これがそのままごはんに出る。
終点駅に近くなるとプランターが空いていくので面白い。

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暖房はそれなりに効いているが、高所を通過していく電車のため廊下などはちょっと寒い。
出口のガラスは常にバリッバリに凍り付いていて、外がやばいくらい寒いんだなということが分かる。そもそも窓から見える川が全部凍り付いてるし。
停車駅は幾つかあるが、外に出るのはあまりオススメしない。冬の富士山以上の場所だし。

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と、そんな寒い中でも、実はこの線路の脇には、監視所があるんである。
このハコみたいなやつが監視所。周囲なんもない平原にぽつーんと建ってる…。ここに…駐屯しろって言われたら…

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何もない氷結の平原で敬礼している監視の人。
つらい…
見てるこっちがつらい…。
標高5,000m以降、パイプラインらしきもののある重要地点っぽい場所では、これが延々と続く。かすかな恐怖を感じるが、おそらく中国ではこのくらい当たり前なのだろう。

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駅は複線になっているが、すれ違いのために停車することが多々ある。
駅の標高はのきなみ4,000mを越えており、車内には酸素が供給されているといっても若干、息が苦しい。トイレでしゃがんだあと立ち上がると息が切れるレベル。車内ではしゃぎすぎて酸欠で倒れないように気を付けよう…。

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駅の近くには当然ながら街らしきものがあるが、その規模はさまざまだ。
地元民が沢山おりていく場所はおそらく昔からの街。軍人さんが沢山おりていく場所は…軍事基地とかかな…?

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線路に沿って監視所と街があるということは、当然ながら道路もある。
そして途中にコンクリート工場があったり、工事用の資材を集めてる場所があったりもする。
また鉄道の線路は現在も拡張中とのことで、ラサが近くなってくると線路を作ってる最中の場所を見ることも出来る。中国さんの「一路一帯」戦略の一環だ。インフラ投資でお金をまわしている国策の一部が、ここでも見ることができる。

青蔵鉄道を単に鉄道として楽しむファンも多いだろうが、私はどちらかというと中国の奥地開発にかける情熱(?)を観察する場としても面白いなと思った。標高が5,000mに近い場所にすら容赦なく人民を送り込み、コンクリートの力を持って未開の国土に果敢に斬り込んでいく。これは実は、かつて同じように広大な領土を持っていたローマが、ローマ道と呼ばれる整備された道をひたすら拡張して統治しようとしたのは同じ戦略だ。中国の高速鉄道戦略は、いわばかつてのローマ帝国の舗装道なのだ。

しかし、ローマだってアルプス山脈の高嶺を貫く道には手を焼いた。
7,000m級の山々を背景にした雄大な景色を前に、氷原に一人ぽつんと佇む健気な保守員の姿には、「これっていつまで維持できるんだろう」という、微かな疑問も抱いてしまった。まあいつかは生きた人間を置かなくてもすむ監視システムが出来るのかもだけど。

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そして駅を降りたとたん、目の前にばばーんと掲示されたザ・中国共産党的スローガンパネル。
中華人民共和国成立70周年記念!

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 うん、やっぱ自治なんて関係無いよな

このあと、街中のいたるところでこのスローガンを腐るほど見かけることになる。道端でも。飲食店でも。寺院の前でも。売店の中でも。面白いところだとトイレの入り口でも。スローガン無かったのホテルの個室の中くらいですね。


ラサに到着。ここから数日は高度順応しながら観光する日々が始まる。
この「数日滞在」の部分はどこの旅行会社に頼んでも同じように日程が組まれるようで、ラサの高度で慣れなければ、他の地方都市(場合によってはラサより標高が高い)には行かせてもらえない。人間の体の限界ともいえる。

つづく。