色々あって面倒なことに…「渤海国とは何か」

渤海国とは、日本のすぐ近く、中国大陸の中国とロシアの間くらいにかつて存在した国のこと。日本でいうと
いや教科書にも載ってるんだから今更だろ? 概要くらいみんな知ってるだろ? と言いたくなるところだが、この本の主題の一つが「日本・中国・韓国それぞれから見た渤海国の歴史理解が違う」という話である。

渤海国とは何か (歴史文化ライブラリー)
渤海国とは何か (歴史文化ライブラリー)
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 日本 → かつて満州国を作る時「渤海国を復活させる」的な感じで利用した ※正当性の主張のため
 中国 → 昔からうちの国だ、と主張した ※実際は「北狄」、北の野蛮人として扱っていた
 朝鮮 → 朝鮮民族が建国に関わったのだからと自国の歴史に組み込んだ ※靺鞨人が忘れられている

これが本書の帯で「歴史の争奪」と言われている内容の超ザックリとした概要になる。言われてみると、ああなるほど…となる話で、今のところでは中国と朝鮮の間でウチの一部だった、いやウチの歴史だと揉めているらしい。いかにも面倒である。

そもそも渤海国は、あまり資料も残っておらず、日本が満州に進出する頃までほぼ忘れ去られていた国らしい。
満州進出に伴い、日本が「失われた王国の再発見」としてプロバガンダに利用したことから中国でも脚光を浴びるようになり、研究が始まった。また朝鮮の北と南でもそれぞれ、自民族の誇るべき歴史として「再発見」され、歴史に組み込まれていったようなのだ。

今の日本は満州を支配していないため、もちろん渤海国の扱いは戦中とは異なる。しかし過去の研究の残り香もあれば、過去研究や資料に混じっているプロバガンダ的なバイアスに気をつけなければならない状況は変わっていない。しかも日本、中国、朝鮮のそれぞれで立場が異なるため、一次資料の解釈や、切り取る断片が異なっている。

その一つが、たとえば「渤海国はひとつの独立した国だったのか、中国の一地方の扱いだったのか」という点だ。日本がかつて中国に臣下の礼をとっていたことはよく知られていると思うが、同じように渤海国も中国の威光を借りて統治していたことがある。その時代をもって、渤海国は中国の一地方だった、と見なすのか。それとも周辺の同盟国の一種のように解釈するのか。ここでは、東アジア独特の「国」や「王」の在り方を論じる必要がある。
また、渤海国が衰退をはじめ、資料が少なくなる時代のことが良く分からないことにも注意が必要だろう。


立場が変われば見方が変わる、というのは当たり前の話だが、ほぼ同じ一次資料を使っても、解釈の仕方によって描かれる歴史像は異なる。
この本はどちらかというと概要書なので細かく突っ込んだ話はあまり出てこなかったが、よその国の研究者の立場も判るだけに、現場の人が気を使っているんだな、ということは伝わってくる。

あと、ぶっちゃけ大陸側には言論の自由はなく、お上の意見や意向が優先されてしまうので、現代における渤海国研究は日本の学者さんが書いたやつがいちばん中立的だろうなという気がした。今はもう歴史の争奪とか関係ないしね…渤海国のポジションも、多くの人にとっては「むかし日本と海洋交易してた国」くらいだろうしね…。