航海実験と称したエンタテイメント「3万年前の大航海」ようやく完結。というわけで…

ようやく茶番が終わるのか…出来ればあとは同業者の間で殴り合って沈めてくれ…という気分。

ここまでの経緯は、まとめ記事に書いた。

ひとつ前の記事はこれ。

【これは酷い】草舟で古代人の航海を再現するプロジェクト、海を渡れないので竹舟に変更するかも?!
http://55096962.at.webry.info/201609/article_2.html

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この企画は、沖縄から3万年くらい前に出土している人骨があり、それが現在の住民に繋がる系譜であった、と仮定して、さらに当時は沖縄と台湾の間に現代と同等の幅の海が存在したと仮定して、「彼らがどのように海を渡ったのか」という謎を追い求めていくというものである。国立科学博物館と本物の学者が参加して、クラウドファンディングで一般人からもお金を集めて行われたこの「実験」と称されるもの。

実態は全く実験ではなく、思い込みで答えを決め、その答えに合わせたパフォーマンスをするだけ、という単なるエンターテイメントであった。

これがバラエティ番組として放映されたなら何も問題はないのだが、学術的な実験や事実として認識されるのは非常にマズい。なので、やはりもう一度ツッコミと、どこがマズいのかを書いておく。


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NHKで放映された番組
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4313/index.html

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クラウドファンディングのページ

【完結編】国立科学博物館「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
https://readyfor.jp/projects/koukai2/announcements/84669

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■これが「実験」ではない理由

実験とは理論を実証するために行われるものである。つまり理論が構築されていなければ、その結果には何の意味もない。
この「実験」と称するものには理論が無いんである。「現在と同等の幅のある海を渡って沖縄にたどり着いたはず」という結論を決定してから、結論に合わせて方法を変えている。当初は「船を作った道具が見つからないので、手で刈れる草を使って船を作る」という話だったのに、ダメだからと竹いかだ、丸木舟と船の種類を変えている。

本当は逆だ。

どのくらいの幅の海を渡ったか、何を使ったかが分かっている状態で「それを使ってどのように海を渡ったか」を試すのであれば確かに実験だが、これは、「海を渡った"はず"だ」と決めつけて、たまたま目の前にあった道具を使って、何故か現代の海を渡れる方法を探した、という話だ。結論に合わせて都合のいい事象を集めて「我々の主張にはこれだけの根拠がある」と誇らしげに胸を張っても…。それってオカルト雑誌がよくやってる「UFOが飛来している10の事実!」とかとやってること全く同じ。

理論が無い、実験として成立していない。古代の人が海を渡ったか否かの議論以前の問題だ。
これを実験と称するのであれば、現代の紅海を丸木舟で横断して「祖先たちの出エジプトを完全再現しました!」と主張出来てしまう。そのくらいのデタラメをやっている。もちろんクラウドファンディングでお金を集めていた人たちは、このくらい分からないはずがない。だから詐欺に近い。

約3,000万×3回(草船、竹イカダ、丸木舟)。
そのお金と手間と時間、他の有望な研究に使うことは出来なかったんですか……(´・ω・`)



■3万年前の人骨が現代人の祖先がどうか不明

この「実験」と称するものは、沖縄で見つかった約3万年前の人骨が海を越えてきたはず、という「結論」を決定するところから始められている。その結論のためには最低でも、「約3万年前にそこにいた人たちが現代人と繋がっている」という証拠が出せなければならない。
しかし、現状ではその証拠がないどころか、真逆の結果が示唆されている。

遺物の出土状況を見れば以下のとおり、1万年ほどの空白期間を置いてようやく人が再び住むようになっている。(出展元「島に生きた旧石器人」)


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また、港川人と呼ばれてる人骨を復元したところ本土縄文人とかなり違っており、1万年くらいまえから沖縄に住み始めた人たちとも違うので、旧石器時代にここに住んでいた人たちはおそらく全滅、もしくは他へ移住したのだろうと考えられている。

理由については、↓この本を読むと推測できる。

島の先史学―パラダイスではなかった沖縄諸島の先史時代
島の先史学―パラダイスではなかった沖縄諸島の先史時代

旧石器時代にはおそらく沖縄周辺の島が固まって一つの大きな島になっており、面積も広かったので、人口を支えるだけの食料を確保出来ていた。だが海水面が上がって小さな島に切り離されるようになると、食料は確保出来なくなったのだ。周囲が海なんだから魚なんて幾らでも取り放題でしょう? というのが勘違いであることも、この本に詳しく書かれているのでご参考までに。
つまりこれは、どう頑張っても「日本人の祖先」の話では無く、血縁かどうかも分からない旧石器時代の人の話なのだ。

そして、各島が大きかったということは、それだけ海を渡る距離も短かった、という話である。
現代の海で距離を測っても意味がない。



■海を渡る手法の選定のマズさ

次に、この旧石器時代の人たちがどのように海を渡ったか、という話である。
これについての証拠は何もない。なので「再現」のしようがない。この時点で話が終わってしまうのだが、今回は、どうしても海を渡る絵を撮りたかったのか、時代考証を抜いて「海を渡れる方法」を採用してしまった。

そう、「当時は生えていなかった」木を使い、「当時は無かったはずの」道具で加工してしまったのである…。

尚、3万年前はまだ旧石器時代なので、のちの縄文時代のような精巧な石器は存在していない。鈍器だけである。鈍器といっても石斧なら木は伐れるだろう、みたいな無茶な理屈で丸木舟を作っていたが、それならまだカヤックのほうが可能性は高い。

"相模野台地で神津島の黒曜石が多用される細石刃石器群段階には、縄文時代の磨製石器に匹敵するような本格的な木工具は存在しておらず、本格的な丸木舟の製作は不可能と考えられる。コントロールのきかない筏では、神津島にたどり着けずに漂流してしまう可能性が高い。
考えられるのは、池谷信之さんも述べるようにイヌイットが用いたカヤックの類の船であろう。こうした構造の舟なら枝や骨などで骨格が組めるので、切削用の石器さえあれば製作は可能である。一方で、その骨角への皮張りが必要となるが、当然、掻器などの存在から皮なめしの知識と技術については、旧石器人たちが持ち合わせたといってよい。(出典元「黒曜石 3万年の旅」)"


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3万年くらい前から沖合の島の黒曜石が採取されて本州に持ちこまれていた、ということが分かっており、番組の中でも「だから昔の人も海を渡れたんだよ!」というふうに誘導しようとしていたが、残念ながら当時は丸木舟があった証拠は無いのだ。これが物証からまっとうに仮説を立てるなら、丸木舟を選ぶことはないだろう。
ちなみに本州から神津島まで、現在の海だと60kmの幅である。

丸木舟を使った航海実験では、千葉県畑町遺跡から出土した丸木舟を再現した「カラムシⅡ号」によるものがある。これは丸木舟という実物が残っているので、まだ根拠がある。しかしこれは縄文時代なので約1万年前~となる。同じものが3万年前の航海に使われていたはずはない。

また、植生も現在とは全く異なるはずなので、当時の台湾付近に今回使ったような杉の大木が生えていたとは言い難い。よくこれを実験と言い張ったものだと思う…。



■ツッコミまとめ

 (1)当時の気候条件が全く違うので、現代の海を航海しても「再現」にはならない

 (2)3万年前の沖縄近辺の島はひとつの大きな塊になっていた可能性があり、海の幅はかなり狭かったはず

 (3)海水面の上昇で島が切り離された時、旧石器時代の人はいったん全滅したか立ち去っている可能性がある

 (4)当時使われていた道具や船が一切不明なので「再現」のしようがない

 (5)気候が違うので丸木舟に適した巨木が台湾に生えていたか不明

 (6)航路の検証が為されていない。そもそも台湾から与那国に渡る航路は不自然

 (7)現代の知識で「海を渡れた」ことは、全く知識の無かった時代の「海を渡れた」とは意味が異なる

ツッコもうと思えばまだ出てくるが、面倒くさいのでこのくらいにしておこう。各項目の細かい内容はまとめ記事のほうに書いている。



■この「航海実験」は、どうすればもう少しマシになったのか

まず最低限、学術的に根拠のある実験という体裁を捨て、ナンチャッテ古代人風のエンタテイメントにすべきだった。24時間テレビでこれをやってたら別に文句は言わない。
また、現在の日本人に繋がるかどうか不明な旧石器人についての話なので、「日本人の祖先」というタイトルは使えない。「幻の旧石器人の足取りを追え!」くらいならいかにもそれらしくなるだろう。

要するに、この「実験」と称されるものは、本職の学者が関わっているとはいえ科学的な実験とは呼べないシロモノなのだ。


さらに番組では、何の根拠もなく謎の縛りを設定して縛りプレイまでしていた。他国のヴァイキングの航海についての実験や、ギリシャ時代の櫂船の実験では、乏しいなりに資料を漁ってそれなりの根拠を見出して航海条件を設定していたのだが、今回のこれ、なんの根拠もなく思い込みで条件を設定してしまっている。要するに「ド根性で海を渡れ」という話である。…とても科学的な実験ではない。ほんと、バラエティ番組でやってればまだ良かったのに…。

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なお、旧石器時代の人類が海を渡っていたはず、とする研究には、日本の神津島の黒曜石の話以外にも、5万年前にオーストラリアに渡ったアボリジニの祖先の話がある。こちらは当時そこで手に入った道具や植物を考察しており、まっとうな研究になっている。この研究からも判るように、「3万年前の人間が海を渡れたはずがない」などと誰も言っていない。

竹筏で海を渡る実験が既にあった件(ただし5万年前のオーストラリアへの移住)
https://55096962.at.webry.info/201707/article_16.html

たとえ「海を渡れた」を最終ゴールとして設定するにしても、どのくらいの幅の海/どういった気候/使えた素材や技術は何か、といった検討を事前に固めておくのは、最低限必要な手続きだろう。


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この記事は、なんとなく胡散臭いなと思っていた人に「せやで…その感覚はあっとるで…」と背中を押してあげること、同じような「古代ロマン」を創りだしてまでお金集めをしようとするロマン詐欺にひっかかる人を減らすことを主目的としている。立派な肩書を持つ人やえらい人が常に正しい単純な世の中なら良かったんですけどね。

国内のバラエティならまだいいけど、これが学術的見解として海外に発表されたりすると黒歴史になりかねないので、同業者の人は全力で止めて欲しい…。。