エジプト・ナイル川下流の遺跡を空から探す。「デルタ・サーベイ・プロジェクト」とBBCの例のアレと

先日の以下の記事の下のほうで言及した、2011年にBBCが流した「エジプト・タニスで新たに17基のピラミッドを発見」のニュースについて。

ピラミッドカウントのズレ/いまだに138基の根拠が分からない。
http://55096962.at.webry.info/201403/article_19.html


当時ザヒ・ハワス博士が烈火のごとく怒っていたのは見たのですが、他のヨーロッパのエジプト学者さんたちも、BBCの番組には文句をつけていた模様。で、AEの2011年の号でジェフリー博士の言及があるという情報を貰ったので早速探してみた。

(EAはEgyptian Archaeologyという専門家用の雑誌。)

バックナンバーを検索。
http://www.ees.ac.uk/publications/egyptian-archaeology.html

EA39号の、たぶんこれがそうだと思うけど、べつにサラ・パーカク博士に文句つけてる記事ってわけじゃなくて、ナイル・デルタで行われている色んな現場の記事だ。オンラインで読める範囲では、特に言及はされていない…。本誌買わないと載ってないのかね。

Joanne Rowland and Jeffrey Spencer, The EES Delta Survey in spring 2011
http://www.academia.edu/3435297/The_EES_Delta_Survey_in_2011

さすがに学者用の専門雑誌のバックナンバー買って読むほどの暇と金と読解力はないので今回はパス。ヴォク一般人ですし。




ただついでなので、この記事で触れられている「Delta Survey」というプロジェクトについて少し調べてみた。これはBritish Academyがやっているエジプトのナイル下流デルタ地帯での遺跡発見プロジェクトで、ジェフリー博士はそこの筆頭みたい。参考になりそうなURLがこれ。

http://ees.ac.uk/research/delta-survey.html

ここを読むと、くだんのジェフリー・スペンサー博士の個人プロジェクトとして開始されたものが1997年に、このEgypt Exploration Society に採用され、現在までにデルタの700以上の遺跡を発見していると書かれていた。

ただ、ここのプロジェクトに関わってる学者さんたちの名簿にはサラ・パーカク博士の名前は入っていない。発掘現場のリストにタニスもなさそうなので、タニスの遺構は、ここのプロジェクトで発見された遺跡、というわけではない(少なくとも今発掘しているところではない)ようだ。長年デルタで発掘してたジェフリー博士含む本業エジプト学者からすると、よそ者がうちらのシマで勝手になんか発見したとか言ってるんですけど?! みたいな話もあるのかもしれない。

#発掘屋さんは結構自分のテリトリーに厳しい。
#本職の人は否定するかもしれないがテリトリーほんと厳しい。


ただ、やはり遺跡は衛星からの情報だけで発見できるようなものではないという認識でよさそうだ。地上で測量した結果や、地表近くの上空から撮影したデータなども交えて総合的に判断されている。

「衛星からピラミッドの遺構を見つけた!」というニュースはやはり飛ばし記事で、サラ・パーカク博士が個人でリモート・センシングで遺跡を見つけたんじゃなくて、現地調査などのデータと合わせて「ピラミッドがここに埋まってるかもしれない」という研究だった、というのが真実のように思えてきた。

たぶんサラ・パーカク博士ってのは、BBCに仕立て上げられた"ヒロイン"なんだろうな…。

#BBCってだけで日本のマスコミと違うものと思ってる人は結構いますが
#しょっちゅうこういう飛ばし番組作ってきます…
#注目を集めてナンボのジャーナリズム競争の弊害っすね


ただ、このサラ・パーカク博士自体は業績はちゃんとしてるようで、彼女の出してるリモート・センシングの本は無料で読める部分だけぺらっと見てみた限りはマトモ。

Satellite Remote Sensing for Archaeology (Kindle版)
http://www.amazon.co.jp/Satellite-Remote-Sensing-Archaeology-Parcak-ebook/dp/B0025CTGQK/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1396522505&sr=8-1&keywords=sarah+parcak

「衛星からピラミッドを発見した」と報道するから捏造報道になってしまうのであって、「衛星からの情報によって、ピラミッドの可能性が高まった」と報道すれば、おそらくクレームがつかなかった & 色んな人が惑わされずに済んだんでしょう。(注目度は確実に下がったでしょうけどね)

べつに無理にピラミッドとか言わなくても、「リモートセンシングの技術で古代エジプトの失われた町が蘇る!」あたりのアオリでも、エジプトファンは爆釣りだと思いますよええ。楽々食いつきますよ。





ナイルデルタは長年のナイル川の氾濫による堆積土で遺跡が埋もれてしまっているのと、もれなく畑か民家の下敷きになっていて掘りづらくなっているので、リモートセンシングを使って遺跡のアタリをつけるのは非常に有効な手段かと思います。(ペル・ラメセスやアヴァリスの遺跡なんかも、畑のド真ん中だしね…) 

ただ、何でもそうだけど、一種類だけの検査で結果が出るものではないし、一人だけの言うことで結論を出してはいけない。
答えが本当に正しいのであれば、異なる確認手段を用いても同じ場所にたどり着くはずで、それをもって「多分これは正しい。」と判断するのが妥当だと思う。

むかしハトシェプスト女王のミイラが特定されたときも、テレビなどでは「遺伝子解析によって特定された! 」と流していたけど、実際は遺伝子解析は補足で、決定打になったのはハトシェプストの名前いりのカノポス壷に内臓といっしょに入っていた、抜けた奥歯だった。

真実を教えてくれる魔法の鏡なんてない。
あるのは、地道な積み重ねの中で見えてくる「それらしい答え」だけなんだと思う。



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とりあえずこの件で思ったことは、日本だけじゃなくイギリスも、マスコミは「とりあえずピラミッドとかツタンカーメンとかミイラとか言っときゃ一般人食いつくだろ」っての、やってくるってことやね。