大ピラミッド建造プロジェクトをシステム屋視点から見てみる -プロジェクト管理の技術力

中の人は日本で最も虐げられているモノづくり職の一つ、システム屋だったりします。

まぁそれはどーでもいいんですが、今まで自分が関ってきたシステム構築というのは、一人で行うものではなく、複数の会社が携わって仕事を分担してやるものでした。デカいやつだと数百人で一つのシステムを作る。
IT屋というとプログラマのイメージが強いですが、システム構築はソフトウェアの開発だけでは成り立ちません。うちの仕事は実際にソフトウェアが乗っかるハード、つまりサーバやネットワークの部分を作ること。まったく異なる仕事をしてる会社同士で業務の分担と連携をする、ここが一番難しい。
プログラム組むだけなら学生でも出来るんです。そのプログラムを全体の完成図に沿って、プログラムの乗っかる基盤まで含めてシステムとしてイチから組み上げるマネージメントが難しいのです。システム屋が3Kとかデスマーチとか万年炎上とか言われる状態に陥る原因は、大抵マネージメントの失敗です。

そう、システム屋に必要とされるなかで最も難易度の高いスキルは、専門的な知識や経験より「人を管理する力」なのです。

いくら良い人材がいても、余裕のある予算と納期があっても、PMが無能だと案件はあっという間に炎上します。納期に間に合わないとかならともかく、設計からやり直しとか、出来上がったけど致命的な問題があって検印貰えないとか、そんなことも一度や二度はありました。大規模なプロジェクトになるほど、マネージメントは難しくなります。

大規模なプロジェクトになるほど。


…はい、ここで思い出してみましょう。
ギザの三大ピラミッド建築って、少なくてものべ数万、多ければのべ数十万人以上の人が関わったといわれてますね。
てことは、

地上最大級のプロジェクトですよね?

画像



ピラミッド建築に関わった人々は、奴隷ではなくお給料のちゃんと出る労働者だったことが知られています。住居跡や監督者の墓が残っており、衣食住が賄われていたこと、ある程度は怪我の治療などが行われていたことなども判っています。
ということは、テケトーにだらだら働いていたわけではなく、労働者たちは「ピラミッド建造」という一大プロジェクトに関わる管理された員なわけです。ていうかダラダラやってたら何時まで経っても納品できませんしね。

大ピラミッド建造に関わった人が何人だったかは研究者によって違いますが、たとえば、間を取って五万人/二十年のプロジェクトだったとしましょう。そうすると、延べ千二百万人月のプロジェクトです。さらに現地で働く人が五万人だっただけで、食料生産、地方からの銅・石材・木材などの資源搬入、管理書類用のパピルス生産etc、周辺業務に関わる人数まで入れるとまさに国家総動員規模のプロジェクトになります。

中の人、二年越しのシステム更改プロジェクトくらいしかデカいのに関わったことないので、この計算だけでクラクラしてきます。こんなドでかいプロジェクト任せられるPMは、そうそういません。ピラミッド建造プロジェクトのPMは、相当なノウハウとマネージメント能力を持ったバケモノだったに違いありません。

大ピラミッド建造において、真にオーパーツなのは、人間である。

はいココ強調したいです。

今まで、ピラミッドを作る「技術」は、石を切るとか運ぶとか、ハード部分にばっかり注目されてて、「人を管理する技術」というソフト面が議論されることが少なかったように思うのです。でもね、人を効率的に動かすのが一番難しいです。

石を切るとか、土を盛るとか、単純な単体作業なんてどうにでもなるんですよ。中国の関連会社に指示出すときも、単純な一個だけの作業なら彼ら実に優秀なんすよ。だけど、「xxなときは○○する」「△してから▲する」みたいな、状況判断を入れて連続した作業が必要になると途端に、高確率でミスが起きるんですよね(´・ω・`)

ピラミッド建造プロジェクトに関わった人々のうち大半は、おそらく単純作業者です。システム屋用語で言うところの「ワーカー」です。渡された手順書どおりに作業するだけの人。そういう人たちを効率的に動かそうとすると、まずは仕事を単純化して、「キミは土を運ぶだけね。」「キミは土を受け取って盛る役ね。」という感じで役割分担をさせ、監督者が作業を見張っている感じにしなくてはならない。例外が起きたら監督者がその場で判断する。盛り土が十分になったら労働者たちを止めて次の場所に移動させる。これを各チームごとに行う必要があります。



というわけで、ここでもう一度システム屋の話に戻ります。

「システム」とは一般的にはIT用語と認識されますが、モノやお金の動きも伴うものです。たとえばAmazonなどで通販したことがある人は分かるでしょうが、自宅でWebに接続して発注ボタンをぽちっと押せば、製造者に注文が届き、在庫が照会され、運送業者に物品が渡され、期日に納品されます。そのとき、この流れの裏では、主要なもので、以下のようなシステムが動いています。

●ユーザインターフェイスとなるWebシステム

Web上の店舗。商品を写真、値段、説明文などとともに提示し、ユーザからの注文を受け付けます。
裏では商品の検索や在庫照会も行っています。リアルのお店でいうと、商品棚。

●決済システム

カードやポイント支払いの場合、クレジットカード会社に情報を照会し、お金のやり取りを行います。リアルのお店でいうと、レジ。

●出品者の管理画面

商品を登録したり、在庫数や値段の管理をする画面。リアルのお店でいうと、バックヤード。

●物流への連結

実際に商品の管理されている倉庫や業者などに注文があったことを知らせ、注文者の連絡先を伝え、商品の輸送を行うよう促す部分。


これらのシステムを、それぞれ別のチームが担当して別個に作成します。場合によっては別々の会社が受注します。A社はWeb開発のノウハウがあるのでWebインターフェイスなどメインの部分を。B社は金融関連が得意なので決済システム。C社は物流大手の子会社なので物流を… という感じで。

しかし、別々に作るとはいえ、最終的に一つのシステムとして連結されなくてはならないので、A、B、C社の間であらかじめ全体像を共有し、お互いが連結しあう部分をどう作るかのすり合わせはしておきます。

たとえば、Webインターフェイスからユーザがカード番号を打ち込むと、その情報は問題なく決済システムに渡されなくてはなりません。また決済システムがカード会社に照会した結果情報も、Webインターフェイスに戻らなくてはなりません。ここの部分の情報のやりとりの仕組みをどうするかの相談が必要ということです。

そして、このやり取りは、A社の担当するWebインターフェイスシステムと、B社の担当する決済システムの概要がある程度出来上がっていなければ成立しません。B社のシステム設計に大幅な変更があり、A社も引きずられて一部システムを修正しなくてはならなくなる…とかいうことは発生させてはならないからです。

また、接続が巧くいくかのテストも必要になるため、どちらかの進捗が著しく遅れることは全体の遅れに繋がるため、A社とB社がほぼ同時にシステムを完成させることが望ましいです。



これと同じことを、ピラミッド建造プロジェクトで考えてみます。

ピラミッド建造の場合、受注も発注もなく、製造者は親方日の丸ならぬファラオ様、国家です。取り合えずピラミッド本体の作成作業に絞って、A社、B社、C社は、そのまま「石切職人」チーム、「石運び」チーム、「搬入路整備」チームと置き換えましょう。

●「石切り職人」チームは、監督官の指示のもと、ひたすら石を切り出します。
●「石運び職人」チームは、切り出された石をピラミッドへ運び、積み上げます。
●「搬入路整備」チームは、石切り場からピラミッドへ至る地面を慣らし、土を盛り上げて、上方へ石を引き上げるための傾斜路(坂道)を作ります。

ここまでの話の流れですでにお分かりでしょうが、この3チームの監督官は、自分のチームを監督するのみならず、造っているものの全体像を共有し、お互いのやるべきことを連絡しあわなくてはなりません。
石切りチームが頑張りすぎて石運びが間に合わないと、切り出した石が近くに積みあがるばっかりで、身動きとれなくなってしまいます。石運びチームが頑張りすぎても、搬入路チームが盛り土で坂を延長するのが間に合わず、ピラミッドの周りで石が停滞してしまいます。

これは、単に「今」を見ればいいのではなく、全体像に対し現在の進捗がどのくらいか、を認識することも意味します。
ピラミッドが高くなるにつれ、必要とされる石の数は少なくリ、切り出すべき石のサイズは小さくなります。石切チームは完成が近づくにつれてヒマになっていくはずです。
それに対し、石運びチームと搬入路整備チームは、傾斜路が長くなるため忙しく、重労働になっていきます。場合によってはチームの人数比率も変えなくてはいけません。ちなみに大抵のシステム構築では、あとあと人数を調整するために、特定派遣の技術者で人数を揃えておきプロジェクトが佳境に入るとサヨナラする、という手法を取っています。ピラミッド建造プロジェクトにおいても、序盤の人数と、佳境に入ってからの人数、あるいは総労働者中の担当作業比率が異なっていたのではないでしょうか。

そうした「全体」の進捗を管理するのがPM(プロジェクトマネージャー)のお仕事。各チームの監督官を努めるチームリーダーからの報告を受け取って、プロジェクト全体の指針を決定します。報告をあげる各チームの監督官も大変でしょうが、その報告から指針を決めるPMはもっと大変です。作業の全体の流れを把握してないと出来ないです。

最終的なピラミッドという成果物を上げるために何が必要か。今抱えている問題は何か。それを解決するには何が必要か。
具体的なことをいえば、たとえば、技術的な問題からピラミッドの内部通路が予定通り作れなかったとします。でもピラミッドは半分ほど石積みが済んでしまっており、今から作り直すことも、大幅な変更を加えることも難しい。ではどうすればいいのか。

「屈折ピラミッド」などは、途中でピラミッド全体の傾斜角度を変えるという荒業で対処しているようです。失敗は失敗でしょうが、これも完成させるための一つの解決策です。システム構築でいうところの「炎上」から、不完全な形とはいえ何とかクロージングまで持ち込んだ例でしょうか。

何も問題が発生せず、予定通りに終わるプロジェクトなどまず存在しません。全てのプロジェクトは、途中で問題に突き当たり、あるいは遅延が発生し、対処に失敗すると「炎上」します。大ピラミッド建造プロジェクトも、建造中には何度も問題が発生していたのではないかと思います。

それらに対処できたからこそ、今、しっかりとギザに立つデッカいピラミッドが残っていると言えます。
古代の大ピラミッド建造プロジェクトの名も無きPMたちは、とってもいい仕事をしたと思います。ええ本当に。



というわけで、何が言いたかったかっちゅーと、古代エジプトの 大ピラミッド建造におけるプロジェクト管理の技術力 は、もっと注目されていいんじゃないのかってことです。

これは言葉として残すのが難しいし、やってる当人たちも「これが正解」という方法は良く分からないです。現代のビジネス書でも、「プロジェクトはなぜ炎上するのか」だの「SEに必要なマネジメント力」だの「指示される人から支持される人へ」だの、それこそ山のように啓蒙書・ハウツー本が出てますが、まぁ読んだだけで出来るようになるのなら、世の中こんなに苦労はしてないわけで(笑)

でも、この「人を動かす」技術なくしては、ピラミッドは築けないのです。
これこそ古代エジプトのオーパーツ、最大のミステリアスな遺産なんではないかと。まあぶっちゃけ実態の半分くらいは進捗管理という地味なスキルなんですけどね。




今までね、これについて満足する内容を書いてくれた学者さんがいないので、これから何か出てくることを期待してみたいなーとかなんとか。


**************

ちなみに、ここでは話を単純化するために「ピラミッド本体」の話しかしていませんが、実際は複数のまったく別個のプロジェクトが動いているため、PMの進捗管理難易度はかなり高いです。

銅器を使うためには「銅器製造プロジェクト」として、

 ・シナイ半島の銅鉱山開発
 ・銅を輸送
 ・ピラミッド付近で銅器を製造

という流れを管理することになり、ピラミッド本体の建設にあわせて製造するために本体の進捗と必要となる数や量を管理する必要も出てきます。

また必要副葬品として使うレバノン杉製の「船」を作るためには

 ・レバノンから杉を輸入
 ・船を製造
 ・使用後は解体して埋葬

という流れを管理することになりますが、これはピラミッド建造の最終段階として必要となるため、輸入が早すぎても遅すぎてもいけませんし、製造した船がピット(埋葬用の穴)に入らないと困るので、大きさや数を建設チームに正しく伝えなくてはなりません。

石切りや石の搬入にしても、化粧石、あるいは内部で使う石棺や玄室用の石材はギザ周辺ではとれず、離れた場所で切り出して搬入する必要があります。

さらに労働者の衣食住をまかなうための「食糧生産プロジェクト」や「衣類配給プロジェクト」など、付随する様々な事業があったのではないでしょうか。
全てが国家主導で行われたかどうかは不明ですが、これらの会計をすべて管理していたとしたら、経理部門も超大変です。毎月が年度末だよ! 書記総動員ですね…。

これは一人の天才がいて管理された、とかいうレベルではないです。秩序だった組織があってはじめてピラミッド建造プロジェクトは達成された。つくづくそう思います。当時のファラオ様に「朕はいかにしてピラミッドを造ったか」とかの自伝本を出してほしいところですね(笑)


***************
関連エントリ

大林組のピラミッド工事見積もりから考える、古代人の実際の建築
http://55096962.at.webry.info/201202/article_6.html

大ピラミッドの作り方を図解してみる、こんな感じでいいんじゃね
http://55096962.at.webry.info/201201/article_22.html

あと、よく勘違いしている人がいる「ピラミッド労働者が二日酔いで休んでた」って話は、間違いです!

【新王国時代/王家の谷】古代エジプト人の出勤簿/ディル・エル=メディーナ出土のオストラカ
http://55096962.at.webry.info/201408/article_12.html