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zoom RSS シリア内戦で破壊された文化財の修復とかどうなってるのか、って話

<<   作成日時 : 2018/04/08 00:10   >>

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周知のとおりシリアの文化財は内戦やISの出現でひどいことになっており、世界遺産登録されたものはいまや全てが消失の危機のある「危機遺産」。しかしようやく情勢に回復の兆しが見えてきたので、これからどうやって立て直すかという話が出来るようになった。

この「世界遺産パルミラ 破壊の現場から」という本は、2017年に日本で開催されたそのシンポジウムの発表内容を収録したものである。



シリアの文化財についてのニュースはちょこちょこ追いかけていたので自分は特に真新しいものとは思わなかったが、これだけ情報ほまとめて報じているメディアはあまりないので、現状を知らない人は初見でびっくりすると思う。パルミラだけではなく、ほかの遺跡も酷い状況で、どうやって元に戻せばいいのか、そもそも戻せるのか、というのを考えるだけでも大変だ。

本の内容には、実際に文化財の保存にあたっている現地の人の話も入っている。「町の復興が始まると軍隊や救急隊が入って来るけど、彼らがガレキを片付けてしまうと、そこに元あった遺物を元に戻せなくなる」などという切実な話も出てくる。(吹っ飛ばされた石像の破片が、まだそこに散らばったままになっている…)

読んでいて一番大変そうだなと思ったのは、「人が足りない」ということ。
シリアからは大量の難民が流出し、紛争で亡くなった人も多く、たとえ情勢が落ち着いたとしても人材が足りない。人材育成するのには時間がかかるのた。日本に支援欲しいこと、という中に「人材育成」が入ってたのは、そこだけはカネですぐに解決できるようなものじゃないからだろう。

破壊された遺跡を修復するのはともかく、まず「実態を調査」して、「何をすべきかを決定する」というプロセスからして、膨大な人手がかかることが予想されている。
ちなみにこれが紛争でダメージを受けた遺跡の数で

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判りにくいと思うので真ん中列の、それぞれの支配地域での遺跡の盗掘数(判明している数)を単純に数だけで別のグラフにしてみた。ISが支配していた地域の、盗掘被害を受けた遺跡の数の多さに「……。」ってなる。他のエリアも被害は受けてるんだけど、数が圧倒的。しかも彼らは盗掘した遺物を資金源に換えてますからね。組織的に盗掘やってるので被害は軽微ではないはず。

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読んでいると、これは文化財という狭い視野の話ではなく、政治の話だなぁということがわかってくる。日本の学者さんが他国の文化財保護を支援するときは大抵、税金を財源とする国の予算からお金が下りる。日本がシリアを支援できるのは日本とシリアの関係が敵対ではないからである。

そして、そもそもシリア内戦を齎したものは、シリア現政権に友好的だった国と、非人道的だと批判して打倒を目指し、反政府組織を支援した国とがあり、双方の代理戦争をさせた隙間に、ISという過激組織が台頭してきたからである。

単純に、机上の空論として理想を掲げるのは専門家でなくても誰にでも出来る。
しかし専門家であれば、具体的な手段と方法を考案して実戦することができる。(出来なければならない)




私はこの本を読みながら、第一線で実際にシリアの現場に関わっている人たちと、それ以外の、業界には属しているけれど空虚な綺麗事しか言わない人たちとの残酷な温度差を考えていた。この本を読んだ人は是非、↓これも読んでください…。

掠奪されたメソポタミア
NHK出版
ローレンス・ロスフィールド

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こちらは、2003年に発生したイラク国立博物館の略奪をテーマにした本。
アメリカ政府の手助けはしたくない、という理由で考古学者たちが軍への協力を拒否した結果、アメリカ軍の中に保護されるべき博物館や遺跡を認識している人がほぼおらず、アメリカ軍のイラク進軍に伴って起きた混乱の中で大規模な破壊と略奪が放置されてしまった… という、話である。

誰が悪い、とはかかれていない。しかし、考古学者たちが他人事で自分の仕事をしなかったのは間違いなく原因の一つである。破壊が起きてから悔やむんでももう遅いし、起きてしまってから何かしようとしても何をすべきかは分からない。

シリアの場合はあまりにも急速に事態が変わりすぎて打つ手はなかったかもしれないが、もしISが台頭せず、政府軍と反政府軍の単純な内戦が続いていたとしたら、文化財の保護を誰よりも考えているはずの考古学者たちは、何か有効な手を打てていたのだろうか。


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