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zoom RSS 変容するアンデスの祭り 「アンデスの聖人信仰」

<<   作成日時 : 2016/12/02 00:10   >>

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分類が難しいが、たぶん社会学よりの民俗学の本である。

神話など、信仰の内容にはほとんど触れておらず、聖人の「祭り」が主題となっている。サブタイトルにある「人の移動が織り成す文化のダイナミズム」というのが結論部分にかかっていて、農村から都市への人口移動、社会構造の変化が、都市に移住した人々の出身地である農村の祭りを変化させているという話。

アンデスの聖人信仰: 人の移動が織りなす文化のダイナミズム
臨川書店
八木 百合子

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舞台はペルーの農村と、首都であるリマ。
まず基本知識として、ペルーはスペイン人の征服いらいカトリックの国ということになっているが、ぶっちゃけヨーロッパのカトリックとはだいぶ違う。カトリックに現地の土着宗教がミックスされたものになっている。聖人信仰はヨーロッパでも盛んではあるが、聖人そのものが神として、キリストやマリア以上の地位を占めていて、ぶっちゃけ多神教である。

ペルーに行くと、教会に等身大の着せ替え人形みたいな聖人像が飾られていて、人々が熱心にそれらに祈っていたり、聖人たちに寄贈されたものが誇らしげに教会に並べて飾られていたりするのも、実際に見たことがあると、「ああ、確かにあったな…」と判る。

その聖人信仰に焦点を当てて、ある村での固有の聖人「ビルヘン・アスンタ」の祭りが、国家聖人である「サンタ・ロサ」の祭りに取って代わられてゆく様子を時代を追って描いてゆくのが本書だ。

実はこれは、聖人への信仰が衰えたからそうなったわけではない。
祭りを支えているのが農村から都市へ移住した人々からの稼ぎであること、農村でのテロ活動(!)により特権階級が離散したことが関係しているという。

ここで「テロ」というキーワードが出てきたことには驚いたが、確かにペルーでは、フジモリ大統領(あの日系人の大統領だ)が就任する以前の時代には、センデロ・ルミノソというテロ組織が悪名を轟かせていたものだった。センデロが武力闘争をしていた1980年代、多くの農村がテロ被害に逢い、農民、ことに移住資金の出せる富裕層が都市へと脱出したという。

これにより、伝統的な祭りを主催していた層が失われた。「担い手不足」によって、かつての聖人の祭りは開催困難になったということだ。

新たに開催されるようになった聖人の祭りは、都市に移住した人々が遠隔で支援するものとなっていく。

農村の暮らしでは現金を手に入れる機会はほとんどない。祭りにかかる資金は、大半が都市に移住した人々からの"仕送り"である。都市というのは首都リマ。リマの聖人は、国家聖人であるサンタ・ロサ。都市に移住した元農村出身者は、都市でサンタ・ロサの祭りを開催している。だから出身地である農村でも、サンタ・ロサの祭りが大きくなっていく。


流れを追ってゆくと、伝統的な祭り、信仰、そして風俗が、テロ活動という社会的な要因によって近代に大きく変化を遂げた理由がすとんと腑に落ちていく。社会構造の変化と信仰の変化は無関係ではない。ただし祭りが縮小されても、ビルヘン・アスンタのほうも信仰を失ったわけではない。「ありようの違い」なのだろう。

わずか数十年で、伝統は変化する。
そしてその痕跡も、あっさりと失われてしまう。

おそらくこれと同様の「変化」は、これまでにも何度もあったと思う。何しろ現代のペルーの民間信仰は、インカ帝国の時代とは全く違うのだ。どこかで変化しているのは間違いない。過去の変節の時代を今から遡って追うことは不可能に近いが、現在おきつつある変容を観察して、試みに過去にあてはめてみることは出来る。
これは、そういう思考をするための、一つの道具となる本だと思っている。

******

これ系の本に興味ある人には↓これとかもおすすめ。
アステカの末裔を含む、メキシコの先住民の祭りについて出てくる。

メキシコ多文化 思索の旅
山川出版社
高山 智博

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