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zoom RSS 中国5000年の歴史、ビール作りが5千年前から始まっていた? ―結論ありきで研究するとこうなるという

<<   作成日時 : 2016/06/10 00:10   >>

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ニュースで流れていた記事を読んであまりの意味不明さに「???」が沢山湧いてきたこれ。
元論文からして既にイミフな部分も多いのだが、とりあえずあれだ、日本語記事を書いた記者も意味分かってないよねコレ。

5000年前の中国で飲まれたビールの味とは
http://jp.wsj.com/articles/SB11031890582215644392604582091583918979526


まず、記事で「ビール」と言われているものは麦で作る我々のよく知るビールでない。

ここが大きなポイント。たとえば南米でつくられる、トウモロコシを発酵させて作られるチチャという酒は、英語にすると「Corn beer」となる。ちなみにコメで作ると「Rice beer」になる。

ワインの場合も同様で、ブドウから作るものだけがワインではなく、ナツメヤシを発酵させて作る果実酒のことを「Date wine」と言ったりする。

焼酎にイモや麦やさとうきびのものがあるのと同じで、beerと書いてあるからといって大麦が原料とは限らない。この記事で言われているビールは雑穀(キビとか)を醸造して作ったいわばどぶろくみたいなやつで、その中に大麦成分らしきものが入っているので、隠し味として大麦を使っていたのでは?! といっているのである…。


と、いうのは元の論文に書いてある。

Revealing a 5,000-y-old beer recipe in China
http://www.pnas.org/content/early/2016/05/18/1601465113.abstract

相変わらず専門用語がいまいち分からないので、自分は以下のサマリーでなんとなく理解した(気になっている)。

5,000-Year-Old Chinese Beer Recipe Had Secret Ingredient
http://www.livescience.com/54834-ancient-chinese-beer-recipe-reconstructed.html#sthash.8kEBWiWj.dpuf


それではツッコみどころを順を追って書いていこう。



・それは本当に酒なのか

偶然発酵しただけ、という可能性もあれば、酒までいかない不完全な発酵物だった可能性もあるわけで、確実に「酒」と言い切れるだけの証拠が乏しい。植物考古学の教科書では、シュウ酸カルシウムが発見されても「ビールづくりの蓋然性が高い」と書かれている。断言できないのだ。ビール滓の主成分なのでビールを入れた器などから見つかるものだが、ビール容器だけから見つかるとはいえないからだ。

日本語記事の中では

"残留物にシュウ酸が含まれていたことを突き止めたことだ。われわれはこれがシュウ酸カルシウムに由来している可能性があると考えている。"


などと書かれており、まずここの時点で思い込みが一つ入っている。そもそも容器に入っていたのが酒ではなかった可能性もあるのだ。



・酒があるはずという思い込みの元で解釈されたデータ

"古代中国人がビール醸造の技術を持っていたという仮説は以前からある。まず、古代中国では既に農業が発達し、安定していた。第2に、ビールは3000年(以上)前の古代エジプトやメソポタミアに存在していたため、中国にも同時期に似たようなものがあった可能性を考えた。"


ここはもう完璧に思い込みの類。絶対酒があるはず→酒を作ってた証拠を見つけよう! となって検査しているのだから、見つからないはずがない。これだと、疑わしきものはすべて証拠として扱ってしまうことになる。


・麦の栽培時期と酒の成分が一致しない

記事の中の研究者は、中国における麦の栽培は3000年まで遡ると言っている。
しかし今回の「ビール滓っぽいもの」が見つかった壷は、「中国五千年の歴史」で5000年前のものである。2000年の差がある。(笑) 今後、麦の栽培の開始を5000年前まで遡らせるのだろうが、今はまだそれが追いついていない。

そこで、「交易で手に入れてきた」などというわけのわからない仮説をたて、「麦は隠し味として使われたに違いない」などという結論をひねり出してきている。これは苦しい。ていうか記者も書きながらおかしいと思わなかったのか。ツッコめよ…。


・酒の醸造に社会階級は必要ない

酒があった→儀式に使われるもの→当時すでに社会階級があった! などとホップステップジャンプで空想の海に飛び込んでいるのは、もはや笑うしかない。酒は必ずしも儀式に使われるものではない。エジプトでもメソポタミアでもビールは庶民の日常食で、儀式用はワインである。

酒が最初にあって、何かの儀式に使われるようになることは在り得るだろうが、儀式に使うために酒を作るという発想もおかしい。また儀式があるんだから社会階級が必要かというと、そんなわけがない。ヴァイキング社会でもプレ・インカでも、祭祀を行いながら身分がフラットだった社会の例なんていくらでもある。



というわけで、この論文は頭からしっぽまで理論はめちゃくちゃだ。
こちとら専門家じゃないが、専門家じゃなくたって理論の飛躍くらいは分かるぞ。ていうかこの類のホップステップジャンプな空想的飛躍、グラ○ム・ハンコックとかでめっちゃ見た懐かしいやつじゃん。

信用していいのは、「5000年くらい前の仰韶でアルコール製造が行われていた可能性がある」というところまでで、そのアルコールは雑穀を利用した原始的なものだっただろう、としか言えない。その先は根拠の薄いファンタジーだ。

使ったものが雑穀ならば、野生の大麦が入り込む余地もある。この時代の中国で大麦が人工的に栽培されていた形跡がないうえ、発見された成分も大量ではないのだから、栽培種よりは偶然紛れ込んだ野生のものと考えたほうがまだ納得がいく。


あとついでに言うならば、成分を分析しただけでレシピの再現など出来るわけがない。
成分分析でどうにかなるのなら、コカ・コーラの製法なんざとっくに世界中にバラされとるわ(笑)
しかも今は、見つかったものが本当に酒だったのかどうかすら怪しい段階なので、そもそも毎回同じ製法で同じ品質を確保して作れるほど技術が洗練されていたのかどうか。

とりあえず予言しておくが、このあと5000年前の麦の栽培の証拠が見つかったっていうニュースが、いつか流れると思うよ。で、ビールの起源は中国ってなるの。何かにつけて起源を主張してくるのは、メソポタミア学者だけでおなか一杯です…。



****************

以前、猫の起源の話とかでもツッコんだとおり、「中国五千年の偉大なる歴史」に沿った研究しか世の中に出てこない、というのが中国さんの悪い癖だ。中国さんの起源主張の全部がアヤシイわけではないのだが、「結論ありき」で論を組み立ててるムリのある説は結構多い。(そして悪いことに、記事を書く記者が内容をイマイチ理解していないことも多い)

中国に限らずわが国でもたまに縄文ファンタジーとかが宣伝されることがあるが、期待成分大盛りの発表をいちいち鵜呑みにしているとあっというまにオカルティストと同じ場所まで落ちるのが古代史というジャンルの恐ろしさ。「ホンマでっか? 根拠はなんやの?」と、うざいくらい疑ってかかるくらいで丁度いいと思うよ。

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