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zoom RSS 古代エジプトに騎兵はいないが、「もしも馬に乗れる人がいたら」という仮定で話をする

<<   作成日時 : 2016/01/10 00:10   >>

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 古代エジプト人は基本、馬に乗りません。

何回目か分からないけど、とりあえずここから始めようと思う…。

馬が入ってくるのは、第二中間期末期。(中間期=王権の安定しない戦国時代みたいなもん)
馬はエジプト土着の生き物ではないので、アジア方面からの移住者が持ち込むまでエジプトには元々住んで居ません。で、入ってきてからも、主な用途は戦車(チャリオット)の牽引であり、直接の騎乗はしていません。

今んとこ、エジプトで馬に乗ってた人がいたという最古の証拠は第18王朝のこの壁画です。

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*サッカラ ホルエムヘブ墓 ボローニャ考古学博物館 No.1889



しかしこれ、「ロバ式騎乗」といって、ロバの乗り方なんです。背中があまり丈夫ではないロバの場合、おしりのあたりに乗るものなんで、同じ乗り方をしてるんですね。同時期のメソポタミアでも同じ乗り方をしていて、まだ馬に乗るのに馴れていなかったことが伺えます。

現代人が想像するような乗馬スタイルの絵が登場するようになるのは、紀元前1000年くらいから。
エジプトだと、第25王朝(紀元前752年頃〜)になると、以下のように「まともに」乗馬できている絵が登場するようになります。ここにたどりつくまでの時代に「馬に乗る」描写を入れるなら、馬の背中に直接乗って、おっかなびっくり「ロバ式」に乗るか、横すわりで乗るしかありません…。

画像


 ポイント: この時点でも馬具がまだありません。

いちばん発明の早かった「はみ」(口の中に咥えさせる金属棒)は紀元前1350年頃にはエジプトに伝わっています。なので、新王国時代の馬にはみを咥えさせて手綱をつけるのはギリギリオッケーだと思います。

しかし鞍が発明されるのは紀元前1000年以降。つまり「第三中間期」より後。
それまでの時代に鞍、ましてあぶみなんて登場させようものならオーパーツですオーパーツ。

あぶみの発明がいつなのか良く分かりませんが、かなり遅い時代になります。
ハミは、ないと馬の制御が難しいですし、鞍は、ないと長時間乗ってられないので必要性が高いのですが、あぶみは無くてもとりあえず馬には乗れますので。

とりあえず紀元後1〜3世紀あたりのインド芸術に、あぶみの先駆けっぽい輪を馬にぶら下げている絵が描かれているのが最古の証拠になるようです。

蹄鉄に至っては、そもそも鉄が安定供給されるようにならないとアレなので、まぁあれですお察し下さい。
ちなみに馬に蹄鉄をつけるのは、人間や荷物など重たいものを背負わせて硬い地面を歩くとひづめが割れてしまうからだそうで、空身で草原を走っているだけなら不必要なものなのだとか。人間を乗せて荒れ地を走らせるなら蹄鉄ないとダメみたいですね。


というわけで、古代エジプトネタの作品で、馬に馬具をガッチリつけて騎乗している完全武装の兵士なんか出てきた日にゃあ、「オーパーツいっぱいwwww」って指差して笑っていい状態なんです。日本の時代劇にガラス窓やダチョウが出てくる級のヤバさ。


ですが…
こうした基本資料を分かった上で敢えて騎馬兵を出す方法はあります。


ただしそれには説得の出来る説明が必要。巧いことやってるなーと思ったのは「ヒストリエ」というマンガであぶみを出した方法ですね。主人公は馬に乗るのが不得意なのだけれど、なんとか乗れるようにしたい。そこで自らあぶみを開発する。主人公が機転の効く頭のいいキャラなのと相まって、説得力のある描写になっていました。

しかし紀元前4世紀のマケドニアであぶみが一般的に使用されるようになってしまうと史実と食い違ってしまう。そこで、主人公が開発したあぶみは、他の兵たちからは「ダサい」「そんなもん要らない」という評価を受けて普及しなかったというストーリーにすることによって史実との整合性を取っています。

これですねー、「開発/発明はされたけど後世に残らなかった」。
このトリックを使えば何でも出来ちゃうんです。
映画「アレキサンドリア」のように、ローマ時代のアレキサンドリアで既に地動説と惑星運動が正しく認識されてたけど、何処にも発表しないうちに発見者が殺されちゃったよ、とかもアリですね。技術の発達は必ず前に進むわけではなく、途中で忘却されていくものも実際多いですし。

古代エジプトで騎兵を出す場合、それが「一過性のもの」であることに説得力を持たせれば可能です。
たとえば馬を連れて移住してきた遊牧民が傭兵として軍に加わるとか、たまたま家畜と通じ合う才能をもってる人がいて馬にうまく乗れちゃった、とかですね。ただし馬具を開発させてはいけない。馬具が開発されて普及してしまうと、史実と食い違ってしまうからです。また騎兵は大量いてもいけない。目立つと壁画に描かれちゃいますからね…。

いかに史実を騙し、「記録には残っていないけど実際はあったかもしれない」という灰色ゾーンを目指すか。ここです。創作者はここを巧くやるべき。何も考えずに馬くらい乗れただろーみたいな思い込みでノリで描いちゃうのは、ただのリサーチ不足だからね。




さて、前置きが長かったけどここから言いたいことなのです。
もし馬に自在に乗れる人がいたら、それは戦局においてどのような変化をもたらすか。

古代エジプト含め、起源前1000年以前の古代世界の馬の使い方は、基本的に「戦車を引かせる」というものです。大抵二頭立てなので、二頭の馬で二人の人間を戦車に乗せて走る。一人は戦車の操作をしながら盾をもち、もう一人が弓矢や槍などで攻撃する。二人のうち一人しか攻撃出来ません。勢いで敵をビビらせる効果はあったでしょうが、馬の飼育や慣らす作業、戦車の作成など、運用のためにかかっているコストは歩兵の何倍にもなります。

これが馬に直接乗って攻撃出来るようになれば、馬1に対し攻撃できる人が1になり、戦車を作る手間もなくなります。大幅なコスト削減です。また戦車を引かないため機動力も大幅に上がります。歩兵がわーっと押し寄せてるときに、その横っ腹に少数で奇襲をかけて、反撃を食らう前に反転脱出できてしまう。たかが馬に乗れるようになるだけで、戦略も戦術も大きく変化するわけです。初期の騎馬民族の機動力と攻撃性がいかに恐れられたのかは何となくお分かりいただけますでしょうか…。

なので「本当はいなかった」騎兵を出すときは、取り扱いに注意しないとマジで歴史がおかしくなります。メギドの丘の戦いに熟練した騎兵10人いるだけで戦局変わる可能性あります。騎兵は紀元前1000年以前の古代世界ではオーパーツですからね? 時代によっては超兵器の一部ですからっ!

なお、紀元前2500年以前だとロバ戦車があったということとロバ騎兵もいたということを覚えておくと、ちょっとだけ幸せになれるかもしれないです。

どうしても騎兵っぽいものを出して戦場にメリハリを出したいクリエイターさんは、ロバでオナシャス!

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