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zoom RSS 考古学者のお仕事―クントゥル・ワシ、神殿発掘記

<<   作成日時 : 2014/09/30 00:10   >>

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中南米を発掘している学者先生方の話は、どの先生も大抵面白い。
それは何でなのだろう、自分の知識が薄くて知らないことを吸収できるからだろうか、などど、ずっと思っていたけれど、自分たちで苦労して一つずつ積み上げた上に「発見」を語るからなのかもしれないと、ふと思った。

エジプトの先生方の話は、もちろん面白い先生も多いのだけれど、「発見」という結果だけを前面に押し出して、その意味も、その前後の出来事もすっ飛ばす先生がたまにいる。そういう話は、本か論文だけ読めばいいしなー、と思ってしまう。実際にプレスリリースをそのまま読み上げているだけのような講演もあって、寝そうになったことがある。

発掘は、掘り出したものだけが重要なのではない。見つけたものをもって解釈すること、保存すること、維持すること、前後のプロセスがあって一つの成果になる。前後のすっぽぬけた考古学は、前世紀に流行った単なる宝探しと何も違わない。門外漢の言うことだが、これから考古学をやろうと思ってる人、今から始める人には、そのことを忘れないでほしいなと思う。

そして、発掘は、その土地に住み続けてきた人の協力なしには成り立たないということや、発見は自分だけの手柄ではないということも。




というわけで前置きが長くなったが、本日の読書紹介はこちら。

アンデスの黄金―クントゥル・ワシの神殿発掘記 (中公新書)
中央公論新社
大貫 良夫

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クントゥル・ワシという名前はおぼろげに覚えていて、そういや昔なんか展示会やってたな…と思う。当時は、特に興味も覚えず流していたが、今になってその遺跡の名前が何を意味するのかを知った。

この遺跡は、ペルー北部の山岳部に位置するプレ・インカの遺跡の一つ。場所はカハマルカに近い。小規模な発掘が行われて以降、だれも手をつけないままだったものを日本の調査団が本格的に発掘を開始し、約十年に及ぶ長期調査の中で黄金を含む多数の発見を成し遂げた場所だ。
そして現在では、発見物は地元にとどめるという方針により、日本からの援助もあってふもとの村に博物館が建てられ、村人たちによって運営されているという。

大学などの研究室での研究と違って、考古学その他いわゆるフィールドに出かけて研究のための材料を手に入れる学問は、そのフィールドに住む人々の理解や協力が得られなければ進展しない。しかし多くの場合、研究者が必要とする材料を手に入れてしまえば、成果は同業の研究者に対して発表されるだけで、地元には届かない。届けても理解できないのだから仕方ないだろうと研究者は考える。
だが、調査や研究の内容をやさしく説明することは不可能なことではない。



これは、本当にそうだと思う。

エジプト学をやってる日本の先生方の中で、現地のエジプト人に対し無償の講演会を開いた方がどのくらいいるのだろうか。遺跡の側に住む人々に、発掘の内容や遺跡の意味はちゃんと説明しているのだろうか。足りてないんじゃないかと思う。

クントゥル・ワシがある同じペルーには、天野博物館もある。地元の人に認められて、地元に還元できる考古学のあり方は時代を先取りしたものだ。それは、これからの時代に必要とされる方向ではないだろうか。もちろん、すべての場合に成功するとは限らないが…。




この本の内容は、発掘を始めるところから、発見物と遺跡の管理を地元の村人たちの手にゆだねるまでの紆余曲折の物語がメインとなっている。遺跡からの発見物についての詳細なデータや解説の本ではないが、地元に根ざした発掘とはこういうものなのだ、と知ることが出来る。

私は、どこの国でも、遺跡の保存や維持は地元民の協力なしにはやっていけないと思っている。政府の送り込んだ軍隊や警察が力づくに保護するのではいけない。2011年にエジプトで政治的混乱が発生した後、多くの遺跡や博物館が略奪され、カイロの考古学博物館ですら一部が破壊された。それは民衆の貧しさと、裕福なコレクターたちの違法も辞さない所有欲のせいでもあったが、発掘の成果が地元に還元されていない証左でもあったと思う。


チリやペルーでは、(あと行ったことないけどメキシコあたりも)日本人が関わって発掘した遺跡の評価が高く、地元民の日本に対する信頼度が高いと感じた。日系人が多いのもあるだろうが、地理的には遠いが、心情的には近い国だった。そこでは考古学は、ただの学術的研究ではない。専門家からの評価だけを気にして行われるものでもない。

いま日本は、エジプト政府に何十億円もODAで支援して、新しい考古学博物館をギザに建てようとしている。しかし、それによってエジプト人と日本人の関係が良くなるかどうかは疑問だ。本当に必要なのは、遺跡のある場所に今住んでいる人たちとの関係なんじゃないか。これまで欧米の発掘隊がしばしばないがしろにしてきて"地元への還元"や"地元民との信頼関係"がない限り、エジプトは、今より日本と近い国にはならないんじゃないか。

この本を読みながら、そんなことを考えていた。

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