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zoom RSS 思索の旅シリーズ・東方編〜 ビザンティン・ロシア思索の旅

<<   作成日時 : 2014/09/12 00:10   >>

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歴史も神話もぜんぶ一緒くたに、各著者が「現地に行って考えてみた」する旅と研究の本「思索の旅」シリーズの中で、手を出していなかった「ビザンティン・ロシア」を読了。著者は「エチオピアのキリスト教」と同じ人で、日本では珍しい正教徒である。

ビザンティン・ロシア 思索の旅
山川出版社
川又 一英

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正教会ってなんぞいという話は長くなるのでかいつまむと、「カトリック」でも「プロテスタント」でもない、もう一つのキリスト教の形態だ。だいたいの分類で言うと、ローマが東西に分裂したあと、西ローマ側のキリスト教が後に「カトリック」や「プロテスタント」になっていき、東ローマ(ビザンツ)側のキリスト教が「正教会」になった。西ローマ側は東ローマ側のキリスト教を「異端」扱いし、東ローマ側のキリスト教は自分たちこそ古来伝統の上にある「正」教会だと名乗り、同じキリスト教の枠組みにありながら、近年まで交流もほとんど無かったという。この辺りの事情は、東西分裂を決定的にした「大シスマ」という出来事を調べると色々出てくる。


というわけで、この本は、著者の属する「正教会」側、すなわち、かつてビザンツ帝国の影響下にあったあたりと、ビザンツから「正教」を引き継いだロシアを中心に、朽ちた教会や、そこに暮らす人々の現在を辿ってゆく内容となっている。日本人にはたぶん馴染みの薄い地域だ。私も地理がわからなくて何度も地図をめくった。

本の中で辿っている主な場所は、

 ・聖山アトス(ギリシャ)
 ・トレビゾント(現トルコ、第一次世界大戦の住民交換まではギリシャ人の町だった)
 ・ブコヴィナ(ルーマニア)
 ・リラ(ブルガリア)
 ・キエフ(ウクライナ)
 ・スズダリ(ロシア)
 ・プスコフ(ロシア)
 ・ノヴゴロド(ロシア)
 ・ブカレスト(ルーマニア)
 ・アララト山(アルメニア)
 ・イオアニナ(アルバニア)
 ・パトモス島(トルコ)

など。

この中で日本でよく知られている地名はキエフとブカレストくらいではないだろうか。某コーエーのゲームで交易をやった人は加えてトレビゾント、ヴァイキングの歴史に興味のある人はノヴゴロドにピンとくる、くらいな気がする。「ロシア正教」で広大なロシアが入るくらいだから、正教圏は意外と広い。しかもそのあり方は、国ごとに一様ではない。既に正教徒が住まなくなって朽ちた教会があれば、今でも熱心に信仰され、キリストの復活を盛大に祝う町もある。

メインは遺跡を辿る話なのだが、ちょくちょく歴史の話が入り、酒や食べ物、出会った土地の人の話が入り、宗教くささも少なく旅の随筆みたいな感じで読める。が、いかんせんその土地のことをほぼ何も知らない状態で読むので、場所によっては「ふーん」しか言えなくなる。たとえばアルメニアとか…。辛うじてだいたいの場所は分かるし、史上初めてキリスト教を国教とした国ということも知識としては知っていた。

が、この本を読んでいるうちにはたと気がついた。アルメニアとトルコの間には、かのアララト山があるのである。
伝説ではノアの箱舟が漂着したとされているアララト山、とすれば人類が再生を始めたのは今のアルメニア周辺なわけで、アルメニア人が「ノアの子孫」を名乗る根拠となっているとなれば、成る程と思う。

アルメニアはアルメニア正教という正教の一派を信仰している。
カルケドン公会議で西側につかなかったのは、自分たちが最初にキリストの教えを採用したという矜持に加え、ノアの末裔という意識もあったのかもしれない。

と同時に、トルコから放逐された過去を知れば、なぜアルメニアがかつてソ連に所属していたのかも今さらのように理解できる。異教であるトルコに攻められても、アルメニアには、西側教会に属するヨーロッパ諸国と共闘するという選択肢は在り得なかった。付くなら同じ正教会のロシアしかなかった。

この視点でロシア周辺の、かつてソ連だった正教の国々を見てみると、なるほど、なぜソ連というまとまりが出来たのかが判るな気がしてくる。一時にせよ、民族解放や独立を夢見て東の大国に付いたものの、夢破れて離散して、その結果さらなる痛みを味わっている、悲しい歴史が薄っすらと見えてくる。


そんな中で興味深かったのは、ウクライナの首都キエフにまつわる部分だった。
ウクライナとロシアが、つい先日までクリミアを巡って泥沼の争いを繰り広げていたことは、今さら言うまでもない。

だがウクライナの首都キエフは、ロシアの前身とも言うべき「ルーシ」の国が興った場所であり、ある意味ロシア発祥の地でもある。

東方ヴァイキングの↓この地図を見たことがあると場所がわかる。

画像


スカンジナヴィアのヴァイキングのうち一部は、出稼ぎまたは交易の用事でコンスタンチノープルへ向かうため川を使っていた。実際にはバルト海と黒海が繋がっているわけではなく、黒海側から入るドニエプル川と、バルト海へ通じるロヴァチ側の間は陸の上を船を引っ張って移動している。川→陸路→川 と移動して、大陸の北と南の海を行き来していたのだ。キエフは、その途上にある中継地点として栄えた。ヴァイキングが建国に関わったという伝説が残る、北方とも縁深い場所だ。

キエフを中心に「ルーシ」が起こった時代には、ウクライナ人とかロシア人とかいう概念はまだなくて、言語も民族も同一だったのになあ…と思ってしまう。

ウクライナ人がロシアへの併合を望んだのも、共通の宗教と言語、さらに輝けるキーエフ大公国の記憶があったからだった。だが、現実はそうではなかった。ウクライナとロシアの言語はいつのまにか分かれており、ロシア湖国家を統一したモスクワ大公国は自信に満ちていた。そのうえ、ウクライナ人はモスクワから見れば、カトリックに汚されていた。


ウクライナの期待は裏切られた、ということになるのだろうか。
かくして、かつて東西それぞれのローマ帝国が瓦解していったように、第三の帝国たるソ連も崩壊する。読みながら、色々な視点で考えさせられるのが「思索の旅」シリーズのいいところだと思う。


**********

なお、この本の最初の2章、聖山アトスに関する部分、どっかで読んだなコレ、と思ったら、同じ著者の別の本「エーゲ海の修道士 聖山アトスに生きる」とほぼ同一の内容になっていた。ギリシャの中にある事実上の独立国家。こっちも面白いので興味のある人は是非、図書館などで。

エーゲ海の修道士―聖山アトスに生きる
集英社
川又 一英

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