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zoom RSS アーサー王伝説の系譜、伝説に取り入れられた各要素の「初出」作品

<<   作成日時 : 2014/05/02 00:10   >>

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宿題になっているランスロットの出自とかちょこちょこ調べているついでに、アーサー王伝説の中に含まれる「伝説の主要素」の初出作品を探してみた。

すでにご存知の方も多いだろうが、アーサー王伝説とは、何百年とかけて様々なエピソードが作られ、あるいは改変され、多数の作家が携わって作り上げられてきた"伝説群"のことである。今風に言えば「クラウド・レジェンド」とでも言うべきだろうか。その時代ごとに物語の主要な筋書きも、登場人物も、人物描写も異なる。

アーサー王の原型となる人物が実在したとすれば、その人物が生きていたのは5世紀ごろと考えられている。その直後には、伝説はまだ「ある一人の偉大な軍の指揮官」を語るものでしかなかった。その最初期の段階では、伝説の主人公は"アーサー"という名前ですらなかったかもしれない。

そこからスタートして、いつのまにか人物は"アーサー"の名で呼ばれるようになり、やがて偉大な軍の指揮官は偉大な「王」へと進化して、歴史上のどこかの段階で、誰かによって、今知られているような「アーサー王」としての宮廷や、家臣や、武器防具や、様々なエピソードを付け足されてきたのである。
(たとえば"エクスカリバー"の本来の持ち主は、ガウェインだったといわれている。)

***

前置きはこのくらいにして、年代順に、伝説の中でアーサー王伝説を形作る主要な要素がどの時点から付け足されていったのかを探してみたので、列記してみる。

「初出」と書いているが、これは「文字として書かれたうち、それ以降の作品に大きな影響を与えた最初の作品」の意味だ。文字にされる以前に口伝として伝わっていた可能性があるが、それはもはや証拠が残っていないため、いつ、誰がを語ることは出来ない。


★父ウーゼル初出

ジェフリー・オブ・モンマスの「ブリタニア列王史」。
ウーゼルの名はここで、ジェフリーがゲール語の「Arthur mab uthr」(恐怖の主アーサー)を、「Uthrの息子アーサー」と意味をとり間違えたことから発生したと推測されている。("mab"は息子の意味。マビノギオンの元になっているmabの単語と同じ)

★エクスカリバー初出

以前調べたとおり、エクスカリバー自体はケルトの伝承にあった「カレトブルッフ」が元。
持ち主が違っていたものを正式にアーサー王の武器として設定して広めたのも、ジェフリー・オブ・モンマスの「列王史」だと思われる。

★円卓初出

ワースの「ブリュ物語」。
席順をめぐって騎士たちが争ったため、席順を気にしなくてもいい丸い席を作ることにした、というエピソードもここに由来する。元になっているのはケルトの伝説でないかと推測されている。

★アーサーの本拠地「キャメロット」初出

クレティアンの「クリジェス」。
それまでの伝説では、ケルトの神話に則り、「カーリオン」のほうがアーサー王の本拠地としてよく知られていた。

★聖杯初出

キリスト教的な意味合いをもつ「聖杯」(グラール)という存在を生み出したのは、クレティアンの「ペルスヴァル」がスタート地点になる。


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個々のエピソードが、いつ付け加えられていったかまで書いていくと、膨大なリストになるだろう。

アーサー王伝説は、有名無名の様々な作家たちが、それまで存在した別の伝説を取り込んだり、吟遊詩人などが口伝として生み出したものを文章に加工したりして、次々に要素を付け足して成長していった。付け足された要素が互いに矛盾していることもあれば、作家によってまったく異なる解釈の仕方をすることもあった。

しかしはっきりしていることは、ジェフリーの生きた時代が一つの区切りになるということだ。
アーサーの原型が実在したと考えられている5世紀以降、まとまった文章としてアーサー王伝説が書かれはじめる12世紀までのおよそ600年間は、口伝の時代である。人々の口伝えに伝説が成長していった、その時代の記録は、21世紀の我々が手に取れる形では、おそらく今後も永遠に出てこないだろう。

***

で、この中で気になったのはアーサーの父ウーゼルの初出部分。
ウーゼル(ユーサー)という名前自体が創作の中のカン違いから生まれたとすると、ジェフリーの「ブリタニア列王史」の中でウーゼルが浮いてる理由に説明がつく。

「列王史」の中では、アウレリウスとウーゼルは兄弟である。
先に王として即位したのはアウレリウスで、マーリンは王のために竜にまつわる予言をする。「列王史」の中では一つの物語に混ぜ込まれているが、マーリンはもともとアーサー王伝説とは関係ない伝説の主人公だ。

そう、アウレリウスとマーリンに纏わる伝説はアーサー王伝説とは別に存在した。だから、「列王史」でアウレリウスの甥としてアーサーが登場するのは、ジェフリーか、ジェフリーの利用できた資料の作者たちの創作である。

ウーゼルはアーサーをブリテン島の王たちの系譜に連ねるため、アーサーの父としてアウレリウスの弟という形で物語に後から付け足され、マーリンの予言の物語と、それに続くアーサー登場の物語を繋げた。しかし元々存在しなかった人物だから、描写も伝説も薄い。アウレリウスもウーゼルもともに毒殺で死んでいるのは、素材となる伝説は一人分しかなかったのに、それを兄弟二人で分け合った結果に思える。

また名前先行で作られた人物で、アーサーの父としてだけ存在すれば良かったために、アーサーが生まれる前に早々に死ななくてはならなかったのかもしれない。


もうひとつ興味深い指摘がある。
ウーゼルはイグレーヌの夫ゴルロイスに姿を変えてイグレーヌと同衾しアーサーをもうけるが、これはエジプト神話にある、ファラオに姿を変えたアメン神によって王妃が身ごもるという神話や、ギリシャ神話におけるヘラクレスの出生エピソード、夫に化けたゼウスによって身ごもる人妻アルクメーネの神話を想定して創作されたのではないかということだ。(アーサー王 その歴史と伝説/リチャード・バーバー)

アーサー誕生に纏わるエピソードが、先行する神話をまねた創作とするならば、このエピソード自体もそう古くはないかもしれない。ウーゼルの存在もろとも、ジェフリーの時代に挿入されたもので、12世紀までは「アーサー王の両親」あるいは「家系」についての伝説は何も無かった可能性もある。

いずれにしても、アーサー王の伝説が急激に変化するのは12世紀から13世紀の数百年の間で、その変容スピードはすさまじい。作品群も膨大になり、現存していないものも多いはずなので、どこの誰が文字通りの意味で「最初」に各要素をアーサー王と結びつけていったのかは、完全に明らかにすることは難しい。

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