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zoom RSS 鉄器は青銅器に先立つか。鉄器は青銅より低い温度で作れるという別世界の常識

<<   作成日時 : 2014/02/18 00:00   >>

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前置きは抜きにして、少し長いが以下の引用を最初にあげている。

それに、鉄器の始まりについて、歴史学者は、人類が最初の金属器として青銅器を政策は、さらに進んだ段階で鉄器を製作してできたと信じて疑わないけれど、この説には重大な反論もあるのだ。それは技術上の面から論じた冶金学者たちの反論であり、その要点は以下のようなものである。まず、鉄鉱石が世界の各地に、かなり普遍的に存在するのに対して、青銅器の原料である銅と錫の鉱脈は世界の特定地域にしか存在しない。特に、錫の産地はきわめて限られていて、大規模な交易制度を人類が確立してからでないと、その供給が難しいのである。たとえば、古代オリエントの青銅器の原材料も、銅は小アジアのキプロス島のものが運ばれ、錫はというと、フェニキア人の商人たちが、はるかな英国の鉱山でとれたものを船で運んできて売ったらしいのである。

また、銅と錫とを溶け合わせて青銅という合金をつくるためには、約九百度という高温の炉を必要とするが、鉄鉱石はそれより三百度も低い温度でも、「固体のまま」で鉄に変わるのである! そこを知らないで、鉄の融点は銅や錫の融点よりも高いため、人類は青銅器をつくる技術をさらに進めて、初めて鉄を溶かすことができたのである」などと説いて冶金学者の失笑をかう歴史の先生も数多い。

なぜなら、人類が約千五百度という「鉄の融点」を越す高温の炉を発明し、初めて鉄を「溶かす」ことによって「鉄」を「鋼」に変えることに成功したのは、わずか五世紀ほど前のことにすぎないのである! つまり、それまでの製鉄法は、世界のどこでも、鉄鉱石を融点以下の温度の炉で熱し、灼熱した固体として炉から出し、ハンマーなどで叩いて不純物を火花として飛び散らせながら、「鋼」や「製鉄塊」に変えるという方法だった。要するに、人類は鉄鉱石を完全に溶かすことが出来ないまま、何千年も鉄器を製作してきたのである。

また、スイス人のルネ・ガルディをはじめ、アフリカの未開部落を調査した数多くの社会学者は、住民たちが青銅器を知らぬまま、きわめて原始的な方法で鉄鉱石を熱して、粗製鉄器をつくっていたと報告している。だから、青銅という高度な技術を要する合金より早く、人類が最初の金属器として鉄器をつくっていた可能性は大きいのである。むしろ、青銅器というのは、鉄器づくりの技術が発展して生まれたものであり、精錬技術の未熟さから多くの欠点があった粗製鉄器に取って代わったというのが真相かもしれない。そして、人類が青銅器づくりの技術を発展させて、鉄を「鋼鉄」にすることができた時、鉄は再び金属器の王者に返り咲いた、と考えれば技術的には無理がないのである。

こういう鉄器先行説は、1870年にドイツの冶金学者ルードヴィヒ・ベッグが主張して以来、世界の冶金学者の間では主流となっている考え方なのだが、ほとんどの歴史学者は絶対に認めようとしない。そのおもな理由は、青銅器文化以前の遺跡から鉄器が発見された例がないからだというのだが、冶金学者たちは、粗製鉄器は腐食しやすいため、土に帰ったのだと反論している。しかし、なにしろ歴史学者というものは、いかに合理的な仮説であっても、決定的な物的証拠が見つかるまでは、頭から異説を否定するのが常だから、やはり世界史の試験答案では、青銅器が鉄器に先行したと書かないと、落第点をもらう恐れがある。

<アナトリア歴史紀行 東西文化の接点・四千年 より>


この部分、明らかに間違ってるだろうというところもあるんだが、それだけじゃない気がして、ずっと気になっていた。ただ古い本だからと笑って読み飛ばすことは出来なかった。とはいえ製鉄の知識なんぞないから、とりあえず図書館と本屋で付け焼刃な知識を仕入れて検証してみた。


まず、基本事項として、金属器は金属に含まれる不純物を取り除いて精錬して作るものだ。
鉄器も同じで、鉄そのままでは不純物が多く使用することが出来ないから、まず熱を加えて精錬する。その精錬方法としては、「直接製鋼法」と「間接精錬法」、どちらでもない「タタラ製法」とがある。

その中で、上記の著者が言っている

また、銅と錫とを溶け合わせて青銅という合金をつくるためには、約九百度という高温の炉を必要とするが、鉄鉱石はそれより三百度も低い温度でも、「固体のまま」で鉄に変わるのである!


とは、たぶん直接製鋼法のことを指している。

この製法では、なんと400度から800度あれば鉄が作れる。燃焼の過程で不純物が抜けたあと、穴ぼこだらけの鉄の塊が残るが、これを「海綿状鉄」と呼ぶ。海面状鉄は、温度が高いほど、より粘り気のある水飴状で残るという。これを叩きなおして作られるのが「粗製鉄器」だ。

銅の融点は1,085°C。
確かに、それより「三百度も低い温度でも、固体のままで鉄に変わる」のだ。

鉄の融点は1,538°Cなので、それだけ見ると「銅より高い」と思ってしまいがちだが、そもそも鉄を製錬するのに完全に融解させる必要はなかったのだ。

ただ、低温で製錬された鉄は、炭素含有率が低くて柔らかすぎる。技術的には鉄器を作れたかもしれないが、実用性は低かったのではないだろうか。
硬度の高い鉄器の生成には高温での精錬が必要で、その意味では、高温を保てる炉の発明まで実用化されなかった、という従来の言い方は正しい。ただしその理由は、よく言われるように「融点が銅より高いから」では無く、「炭素含有量のコントロールのためにより高い温度を必要とするから」だ。

そして、実はヒッタイトの時代の製錬方法も、まさにこの直接製鋼法だった。
最低温度よりは最高温度に近かったと思うが、鉄の融点温度が出せる炉は使っていない。

何となくイメージで、「ヒッタイトが鉄器を大量生産していたのだから、鉄を溶かせる炉があったんだろう。」なんて思っていたら大間違いだった。人類が鉄を完全に融解させられる1500℃オーバーの炉を開発したのは、まさに五百年前。「人類は鉄鉱石を完全に溶かすことが出来ないまま、何千年も鉄器を製作してきた」というのは正しかった。ヒッタイト鉄溶かしてねえ!

いやなんつーかね。専門外だからとか言って調べないで人の言うこと鵜呑みにしちゃダメってことだよね(笑) 鉄は溶かさなくても生成可能な鉱物だという話は製鉄の本の最初のほうに書いてあったから、たぶん製鉄業界の人にとっては常識的な知識なんだろうな。世の中知らんことはいっぱいあるよ。



ただ、上の引用文にある「だから鉄器は青銅器より先に実用化されていた」という部分は、違うと思う。人間が金属器を使おうとしたのは、石器より硬くて優れた武器になるからだったはずで、作るのが面倒くさい上に耐久性が低いのでは、あまり実用的ではなかったんじゃないかな。

「決定的な物的証拠が見つかるまでは、頭から異説を否定するのが常」というのは、歴史学者というよりは考古学者の鉄板で、考古学では物的証拠が見つかるまで仮説は仮説。だから考古学者は日々、新たな発見を求めて発掘を続けている。

それに、腐食してなくなったにしろ、青銅器に先立つ鉄器がまったく見つからないなら、よほど数が少なかったはずで、実際は使われていなかったのと同じじゃないのかなあ。少なくとも、隕鉄由来の鉄器は青銅器時代のものがいくつか見つかっているし。製鉄の基準となる鉄滓も見つかっていないなら、仮説はあくまで仮説、実用化の有無は融点が高いか低いかの問題ではない。

それと、「古代オリエントの青銅器の原材料も、銅は小アジアのキプロス島のものが運ばれ、錫はというと、フェニキア人の商人たちが、はるかな英国の鉱山でとれたものを船で運んできて売ったらしいのである。」とあるが、青銅の精製材料は、エジプトなら国内でまかなえた。錫はナイル中流あたりに産地があるし、銅はシナイ半島ーの遠征で得ていたことがわかっている。逆に良質な鉄鉱石を産する場所が近隣に無かった。また製鉄の際に消費される大量の燃料をまかなえるだけの森林資源も乏しかった。よって「オリエント」をエジプト基準で考えると、青銅器のほうが普及する素地はあったと言える。

→参考地図はこちら
http://55096962.at.webry.info/200809/article_9.html


と、いうわけで、正解の部分もありつつ誤謬と思われる部分もあり、まとめると


・鉄の製錬は銅よりはるかに低い温度で可能

・よって「鉄器の普及に高温を保てる炉の発明が必要だった」という説は誤り

・最初に鉄器を大量生産したヒッタイトの炉でも鉄を融解させられていない



ちなみに鉄は、含有する異物の量が低くなればなるほど「錆びにくくなる」という。

錆びるとは酸化するという意味だから、酸化対象の異物が無ければそりゃ錆びないよね。という理屈だ。ツタンカーメン王墓から発見された鉄の短剣にほとんど錆が無かったのはよく知られている話だが、その短剣は純度の高い良質な鉄で作られていることになる。短剣はヒッタイト製だろうと言われているが、完全に鉄を融解させなくても純度の高い鉄は作れたということだ。
鉄を融解させられる高温路の誕生は、製鉄の効率を上げただけで、良質な鉄器を作るのに必須技術ではなかったようだ。

ただ、考古学の本はほぼ例外なく、ヒッタイト時代の製鉄は「鉄を融解させる炉」を使っていた、と言っている。大村先生の「アナトリア発掘記」を読み返してみても、やっぱり「鉄を融解させる炉」という言葉が出てくる。鉄鋼業の本に書かれている内容と面白いほど食い違うのは、全然ジャンルの違う世界の話だからなのか。

とりあえずあれだ。考古学やるなら考古学ジャンル以外の知識も必要ってこと。
本日もまた一つ勉強になりました。

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