古代エジプトの浮き彫り絵師事情;壁画のお仕事はOJTで!

OJTとは、オン・ザ・ジョブ・トレーニングという、要するに最低限の知識のみで一人前になってない人を現場に放り込んで実戦で育成するという、世の中一般に広く行われている新人教育の手法である。
ブラック企業の手法のように言われることもあるが、ぶっちゃけ、大抵の仕事では最低限の知識が身についていればそこから立ち上がることは難しくないので、最初から一人前の人と同じ働きを求めるとかでなければ、ごく普通の育成方法である。

さて、そんなOJTだが、古代エジプトの絵師たちの世界でも、新人育成の方法として使われていたらしい。
完成品の壁画の部分ごとに作り手のレベルが違うことで分かるのだとか。

Female pharaoh’s temple reveals how Egypt’s ‘ancient masters’ carved their art
https://www.science.org/content/article/female-pharaoh-s-temple-reveals-how-egypt-s-ancient-masters-carved-their-art

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分析されている対象は、ハトシェプスト女王葬祭殿。
壁を刻むノミの跡がやたら不器用で何度も刻み直しているようなところがあるのだという。また、ファラオなど重要な登場人物は上手い人が作り、それ以外の小さく描かれた脇役や背景などについては、不慣れな線が入り混じっているという。

考えてみれば確かに、墓の内部の壁画は「壁画」という、壁に描かれた大きな絵の集合体なのだ。美術的な視点からの分析も可能だ。

記事では、これをルネサンス期の絵師工房にたとえているが、おそらく似たようなものだったのだろう。
ただし古代エジプトでは、発注元が有名な絵師を選んで工房に注文を出したわけではない。墓の装飾を受け持つ職人たちは国のお抱えだったはずだからだ。職人集団に対して依頼それた仕事に対して、その集団の中でまとめ役になるベテランたちが受け持ちを決めて、それぞれの弟子を取り仕切っていたのだと思う。

また、壁面をならす下地師、下線を書く絵師、それをもとに線を刻む彫刻師、着色していく絵師など、工程ごとに集団が別れていて、その中でもベテランと新人があったはずだ。

古代エジプトの神殿といえば、びっしりと絵が描かれた状態を想像すると思う。ハトシェプスト女王葬祭殿も、すべての部屋の壁が装飾されていて、かなりの手間がかかっている。
果たして、神殿まるごと一つぶんの壁画を仕上げるために、何人くらいの職人が働いていたのだろうか。興味は尽きない。