ビール酵母は人間の旅路が生み出したかもしれない。人と酵母の一万年の旅路とは

現在よく飲まれているビールの大半は、下面発酵といって、発酵の終わった酵母が沈殿していくタイプの酵母を使って作られている。
しかし人類が最初にビールを飲み始めた頃には、上面発酵という、逆に酵母が浮かんでくるタイプの発酵が行われていた。古代エジプトやメソポタミアでは、ビール醸造後に表面に浮いてくるカスを避けるようにして、あるいはあらかじめ濾しておいてから、酒本体を飲んでいたのである。

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で、下面発酵の酵母が発見されて使われるようになったのは15世紀頃らしいのだが、どうもこの酵母、突然変異の代物であり、いまだ起源地がはっきりしていないのだそうだ。

半分は、以前から使われていた上面発酵の酵母であることは間違いない。
もう半分の、別の酵母の正体がわからないのだ。

類似する酵母は、2011年に南米パタゴニアから見つかっているが、大航海時代より前に下面発酵の酵母が使われ出しているらしいことから、若干疑問符がつけられている。もうひとつの起源地候補がチベット高地で、2014年に、こちらのほうがゲノム配列は近いとして論文が出ている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/56/9/56_560908/_pdf
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酵母の系統樹については、さすがに知識が足りないのでどっちがどう、とも言えないが、どこが片親の起源地にせよ、現在の下面発酵の酵母は、最初から使われていた上面発酵の酵母と、どこか遠くから人間が運んできた別の酵母の交雑によって生まれたものだろう、というところまではほぼ確定している。となれば、現在よく使われているビール酵母の系譜とは、酒とともに生きてきた人類の一年万史によって生み出されたもの、と言えなくもない。

大航海時代の航路か、陸のシルクロードか、はたまた別の場所か。
人間とともに移動して生まれた菌の系譜が、今の、低温で効率よく発酵できるビール酵母へとつながっている。


ていうかよく考えたら、人間って何か種族を絶滅させるだけじゃなく、新しい種族を生み出すこともあるんだよなぁって。ある意味で「世界で最も旅する動物」の一種なので、微生物は人間とともに移動することで、本来出会うはずのなかった近縁種と出会って交配出来るんだよね。そして新たな種も生まれる。
近年ずっと騒がれているコロナウィルスだって、人間に寄生することで世界中に繁殖出来たうえに多数の変異種を生み出せたわけだしね。

というわけで、いつも何気なく飲んでるビールに潜む、知られざる歴史の話であった。
来年は…ビアホールに行きたいです…。


※ここでの1万年は、意図的にビールを作りはじめてからというよりは人間が麦栽培を始めてからの時間をさす。
 おそらく最初は、偶発的に発芽した麦が腐敗する過程で酵母が活躍していた。




あとおまけ
上面発酵と下面発酵のちがい

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https://kitasangyo.com/pdf/e-academy/tips-for-bfd/BFD_44.pdf