「人為」選択も自然選択の一部となるか。密猟されすぎたゾウが「牙なし」で生まれてくる現象についての研究

内戦が続いていた15年の間にゾウが象牙狙いで密猟されすぎたモザンビークのゴロンゴーザ国立公園で、染色体異常で牙のないまま生まれてくる雌のゾウが増えている、という話。元々、牙のないメスは低確率で生まれてくるものだが、そのメスばかり生き残っているうちに、いつの間にか多くのメス象が「牙なし」の染色体異常を受け継ぐ状態で固定されてしまった、というものだ。

牙のない雌ゾウが増加、密猟への遺伝的な反応で モザンビーク
https://www.cnn.co.jp/fringe/35178467.html

実はこの研究は2018年にすでに知られていたのだが、今回はその研究がさらに進んだ結果、人間の狩猟圧によって形質が選択されたことが確定した、という話である。

↓これが2018の記事

牙のないゾウが増えている、原因は密猟
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/111300246/

ここに載っている図がわかりやすい。
内戦中は牙のないメスのほうが圧倒的に生き延びやすく、ある一定の年齢以上だと、なんと牙なしメスが約半数になっている。

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ただ、この遺伝子異常、オスの個体にとっては致命的となるのだという。
牙を発生させない遺伝子異常はX染色体上で発生する。メスの遺伝子はXXなので、片方のXに欠損があっても生き延びられる。しかし、オスはXYでX染色体を1組しか持たないため、そのX染色体に欠損があると、生きて生まれることが出来ない。

これが、メスのみ牙を持たない個体が増えている原因なのだという。

Ivory poaching and the rapid evolution of tusklessness in African elephants
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abe7389

ちょっと調べてみると、人間でも犬歯の成長が止まる遺伝子異常はX染色体に発生するもので、男性には致命的になるものだとか。
ていうか、オスには致命的どころかゾウの場合は「胎児のうちに死ぬ」というそのまま考えればかなり生存不利に見える形質が、人間の狩猟圧によって優勢な形質として固定されてしまうっていうのは、論文にも出てきたけど、たしかに稀なケースだと思う。
そんなこともあるんだね…。


この研究に対し、人間のせい! とか、残酷! とか騒ぐのは簡単なのだが、私はこれも人間とゾウという異種族の共存の形なのだと思った。
人間以外の自然界においても、ある種の動物の行動が、別の動物の形質を変化させることはよくある。

植物が動物に食われないとトゲをつけたり、マズい味になったり、逆に食われることを前提で美味しい果実で種をくるんで運んでもらうことでwin-winの関係にもっていこうとしたりすることもそうだし、毒を持つ別の種に化ける昆虫や、ライバルの少ない夜間に行動するため夜目や聴力を発達させた肉食動物なども、その類だ。

密猟は確かにポジティブにはとらえがたい行為だが、人間もまた自然の一部なのだから、人間の行動による結果も全て、自然界の選択の一部になるのではないか。事実、牙のないメスが生き延びることによって、ゾウは、人間という「天敵」の攻撃を避けられる方向に「進化」出来た。とも言える。
もっともその場合、ゾウにとっても天敵=人間、ということになってしまうのだが…。