人類、アフリカを出たり入ったり。アラビア半島の砂漠から数々の証拠が見つかる

ホモ・サピエンスの「出アフリカ」は、一昔前まで一回か二回と考えられ、「なぜそのような特異な状況が起きたのか」と論じられてきた。
しかし最近の研究では、「実は何回も出たり入ったりしていた。我々はその中でも最も遠くまで出かけた人々の子孫に過ぎない」という感じになってきている。
どうやら、気候条件がいい時には遠くまで出かけ、悪くなると別の場所に移動する、というのを繰り返していたらしい。

これが、新たな石器の発見や、骨のDNA解析などの視点を加えた最近のトレンドだ。

今回の研究もそんなものの一つ。
かつては遺跡なんてないだろうとされていたアラビア半島も、ランドサット映像やドローンなどを使ってどんどん古代の記憶のカケラが発掘されるようになってきている。

Lush wetlands in Arabia lured waves of early humans out of Africa
https://www.science.org/content/article/lush-wetlands-lured-waves-early-humans-out-africa-stone-tools-suggest

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この研究は、アラビア半島の南のほうにあるネフド砂漠(Nefud Desert)に残る古代の湖の痕跡から、過去にそのあたりにやってきた人類の残した石器を発掘したというもの。衛星画像で砂漠の色が変化している場所を、過去に気候変動で雨量が多かった時期には湖だった場所だろうとアタリをつけているのは、いかにも最近の研究らしい。

まあ写真見ると今じゃ水なんて無ささうな広大な砂漠なんですけど、何十万年という単位で見れば、過去に何度も緑の草原だった時期があるのですよ。地球の気候はダイナミック。

で、今回調査された Khall Amayshan の湖跡では、過去に6回、水が溜まって干上がるのを繰り返した痕跡があり、人類がそこに到達した痕跡があるのは40万年前、30万年前、20万年前、10万年前、5万5千年前。さらに Jubbah oasisでは20万年前と7万5千年前の石器も見つかったという。

ということは、おそらく Khall Amayshan でも見つかっていないだけで7万5千年前に到達した人類はいたのだと思う。過去6回の気候変動、アラビア半島に雨が降り「緑の回廊」が出来ていた時期に、その時々の人類がアフリカからここまで出かけてきていた。

なお、このアラビア半島にやってきていた人類は、おそらくホモ・サピエンスでない。現生人類の登場は20万年前と考えられているので、それ以前だと別種の人類だ。また、いちばん新しい5万5千年前の石器はネアンデルタールのものに似ているそうなので、もしかしたら新しい時代のものもホモ・サピエンスではないかもしれない。(ただ、ホモ・サピエンスのものと思われる精密な石器も出ているので、おそらくたまにはここまで来ていた人たちがいる。)

もちろん、アラビア半島が緑になった時にやって来るのはヒトだけではない。様々な動物たちもここまでやって来た。たとえばダチョウで、骨が出ているようなので、おそらくアフリカからここまで、海を渡ってか、シナイ半島を越えて陸路かでやって来ている。ヒトの最初の出アフリカは、獲物を追いかけてるうちに気がついたら見知らぬ土地にいた、というものだったかもしれない。

こうした研究を見ていると、ヒトの「出アフリカ」のイメージは、昔とはだいぶ違ってきたなという印象だ。何か明確な意図があってというよりは、気候条件に左右される偶然のもの、という感じ。逆に言えば、「ではヒトはいつから明確な意思を持って遠くを目指すようになったのか」が気になってくる。

たとえばベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸を目指した人々や、オーストラリア大陸へ渡った人々、太平洋の島々を発見し開拓していった人々などは、明らかに明確な「未知への挑戦」の意思を持っていた。でなければ、何も見えない厳しい環境の先や、何もない果てしない水平線の彼方へ進もうとは思わないはずだ。次なる人類史のターニングポイントは、そのへんになりそうかなと思う。