絶滅動物を復活させるなら、ロッキートビバッタを復活させてくれよ。

絶滅動物を復活させたい、という意見、または復活させよう、という運動についてはよく見かける。
代表例としては日本のトキ。国内のものが絶滅して中国から連れてきて日本で繁殖させている。またヨーロッパでは、いちど絶滅したオオカミの再導入を行っている。またザンビアのリウワ平原では、ライオンが一頭を残して絶滅してしまったので他の地域から連れてきて繁殖させようとしている。

ある地域で絶滅したものを、別の地域から再導入するのはまだハードルが低い方だ。
もっとハードルの高いものだと、完全に地球上から居なくなったものを「再生」させようとする試みがある。たとえばリョコウバトや、ドードー、ヨウスコウカワイルカなどが対象として上がりやすい。近縁種を使って遺伝子操作出来ないか、といった検討がなされているのを見かけることもある。

――だが、ずっと気になっている。

なぜ、復活させたいものの中にロッキートビバッタが入っていないのか。

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ここで説明しておくと、ロッキートビバッタとは、かつて北米で大発生し、入植者たちを阿鼻叫喚の渦に叩き込んでいたバッタである。昨年ニュースを騒がせていた、サバクトビバッタと同じように、大量発生し、群れになって作物を食い尽くしていくヤベー奴ら。ただし絶滅済み。

ロッキートビバッタはなぜ滅びたのか。様々な説の果てに見いだされた答えとは
https://55096962.at.webry.info/202008/article_25.html

よく、絶滅動物を蘇らせたいという行動を正当化するために、「本来の生態系に必要なものだから」という理由づけがなされることがある。
たとえば日本の野山からニホンオオカミが消えてしまったことによって、シカが増えすぎて食害が深刻になっている。だからオオカミの再導入は必要ではないか、というような意見だ。

しかし、もしこの理由づけが正しいのであれば、絶滅した全ての生き物は自然界にとって等しく必要だったもののはずなのだ。というより、あらゆる生物は、自然界に存在する以上は何がしかの役割を担わざるを得ない。よって、人間が「必要」「不要」を判断して、蘇らせるべきだとか、別に要らないとか、そんなことを言う権利はない。

現実には復活させたい種を、自分たちの好きなものだけに絞り込んでいるのだから、これは、ただの言い訳に過ぎないと判るだろう。
そしてもっと言うならば、自然界は、何もなくても勝手に種が絶滅したり、誕生したりする世界である。ある種が消えれば、別の種がその場所を埋める。生命誕生いらい、この星はそうやって回ってきたのである。
何かの種が滅びれば確かに何かが失われはするだろうが、別の何かが得られているはずなのだ。というか、「あるべき世界」などというものは一瞬たりとも存在しない。長い目で見れば、この地球上のすべての場所は、気候も、そこに住む生き物も、常に変化し続けているのだ。



話を戻すと、人間が滅ぼした絶滅動物を蘇らせるべき、という考え方は、最初から矛盾と無理を孕んでいる。

誰もロッキートビバッタを復活させたいと思わない。なぜなら、彼らが絶滅した原因は繁殖地を人間が開拓してしまったからで、もうもとに戻せないからだ。そして仮に復活させることが出来てしまった場合、北米の穀倉地帯が壊滅するのは避けられないからだ。誰もそんなことは望まない。リョコウバトなら復活させてもいいと思っているのに(そしてハトだって多少は穀物を食べるはずなのだが)、ロッキートビバッタは必要とされないのだ。

同じように、誰もミヤイリガイを復活させたいとは思わない。
致命的な病気を媒介するこの貝は、人間が時間と労力をかけて絶滅させた淡水貝だ。もし生き残っていた場合は、見つけ次第殺さなければならない。必要とされない絶滅種の筆頭だろう。

病原体も生命とカウントしていいなら天然痘ウィルスだってそうだ。他にも、人間が絶滅させようと試みているウィルスや細菌は多数ある。世の中に存在する生物には、人間の都合で「必要」「不必要」の区別がつけられ、かつ、「必要」とされたものの中でも、復活の議論が成されるのは、主に無害なものが絶滅した時だけである。

これは意識しておくといいと思う。



だから私は、絶滅種を復活させたいという話はいつも懐疑的に眺めている。
単なる好き嫌いで種の価値を値踏みするような真似はしたくない。そのために白々しい大義名分をぶち上げてると、なおさら興ざめになる。
絶滅した動物に価値を見出すのなら、まずはロッキートビバッタを復活させてほしい。私は生きているあのバッタが見たい。個人的な趣味として。


*絶滅動物の復活については、こんな本もあるよ
絶滅動物は甦らせるべきか? - ブリット・レイ, 高取 芳彦
絶滅動物は甦らせるべきか? - ブリット・レイ, 高取 芳彦