火山が噴火してもピラミッドは作る。エルサルバドルのマヤ人の物語

つい先日読んだ本では、メキシコのポポカテペトル火山の噴火後に人が戻るまでかなりの時間がかかった、という事例が出ていた。

ポポカテペトル火山と人口移動の理論。火山噴火はやっぱ怖いよね…
https://55096962.at.webry.info/202106/article_13.html

しかし今回の研究では、火山が噴火したにも関わらず、わりとすぐ人が戻ってきて、火山灰の中でピラミッドを作り続けていたという謎めいた話が出ていた。

A Giant Volcano Didn't Stop Ancient Maya From Taking The Ashes And Building a Pyramid
https://www.sciencealert.com/giant-pyramid-built-by-the-maya-was-made-from-rock-spewed-by-a-volcano

元の論文

Human responses to the Ilopango Tierra Blanca Joven eruption: excavations at San Andrés, El Salvador
https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/human-responses-to-the-ilopango-tierra-blanca-joven-eruption-excavations-at-san-andres-el-salvador/C3C5F323AF8489C3729B630FBC063B10

問題となっている火山は、エルサルバドルのイロパンゴ火山。
この火山の、5~6世紀頃の噴火は火山爆発指数で「6」、メソアメリカの文明に壊滅的な打撃を与えたとされる。また、地球規模の寒冷化も引き起こしている相当に巨大なものだ。

にも関わらず、この火山からそう遠くないサン・アンドレアス遺跡では、噴火からほどなくして人が戻ってきているというのだから、「何で?」という感じである。

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で、ググってみたら、なんと日本語で研究があるじゃないですか…!

イロパンゴ火山4世紀巨大噴火がメソアメリカ先古典期文明に与えた影響の再評価
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18510159/

"従来、中米・エルサルバドル共和国中部に位置するイロパンゴ火山で4世紀頃に巨大噴火によって、広い地域で火山灰が厚く堆積し、当時の古代メソアメリカ文明は壊滅的な影響を被ったとされてきた。本研究では、火山灰の堆積状況を現地で調査した結果、壊滅的な被害を被ったのは、火砕流が到達した火山から40km 程度の範囲、および、土石流が流下したレンパ川下流域などに限られ、それ以外の地域では、火山灰の堆積量が少なく、壊滅的な影響が生じなかった可能性が高いことが明らかとなった。"


※ここでは4世紀となっているが、今回取り上げた研究では、最近の年代測定で6世紀という数値が出ているらしい


というわけで、壊滅的な打撃を受けた範囲はかなり限られている可能性が出てきたというのだ。
これは火山大国の日本にいるとなんとなく分かる。噴火規模が大きいと、火山灰が一気に成層圏まで行っちゃうのだ。噴石や火砕流を食らう近隣地域でもなければ、それほど壊滅的で即死するような被害は受けない。というか九州のあたりなんかが、まさにそういう、火山の噴火で被害食らったすぐ外側に人が居住し続けてる地域なわけで…。

そして今回の研究では、噴火後、早ければ5年以内、長くても80年以内には、遺跡のある場所に人が戻ってきて、火山灰や石を基壇に盛り込んでピラミッドの建設を再開していたことが分かったという。

*「テフラ」と書かれていたが、あとのほうにtuffという言葉が出てくるのでたぶん、凝灰岩。軽石のような噴石を切り出して、基壇の部分に混ぜたということらしい
*TBJというのがイロパンゴ火山の大噴火イベントのこと。=The Ilopango Tierra Blanca Joven (TBJ)

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で、どうやって人が戻ってきた時代を測定しているのかというと、イロパンゴ火山で起きた噴火のあとに起きたロマ・カルデラの噴火の灰の下に、イロパンゴ火山のテフラがはめ込まれているから、なのだそうだ。
(ロマ・カルデラのほうはそれほど噴火規模は大きくなかったと考えられている)

また、このピラミッドを作るのにかかった年数が推定で計算されており、1000人規模で年間60日働いて3年、というくらいのレベル。まぁエジプトのピラミッドとは比べるべくもないが、少なくとも、ちょっと人が戻ってきて作れば出来るものではなく、集落ごと戻ってきて、大人数で建設事業を再開していたと言うことの出来る規模だ。


この研究が面白いなと思うのは、かつては、「大噴火があったら人間はすぐ逃げちゃってしばらく戻ってこないだろう」と考えられていたけど、全然そうじゃなかったと分かったところだ。
いったん定住生活を始めた人間は、何かあってもすぐ元の居場所に戻ってくる習性があるし、宗教あるいは文化活動に費やすエネルギーは、環境が変化していても尽きない。

似たような研究では、近年、トバ火山の噴火にまつわるものがある。
かつては、噴火後はそのへんの人間は滅びたのではないかと言われていたが、直後から再び石器が見つかるようになるところからして、案外さっくり人が戻ってきてたらしいと分かってきたのだ。

トバ火山大噴火のその後の議論 インド亜大陸の人類は滅びたか、生き残ったか
https://55096962.at.webry.info/202002/article_19.html

放棄される集落と、居住がすぐに再開される集落の差は何なのか。
恐ろしい火山噴火で周辺が壊滅してても元の定住場所に戻ってくる図太さはどこから来るのか。

火山と遺跡の関係は、面白い研究テーマだと思うのだ。