歴史要素が重すぎる。「ロシア正教の千年」

元々のタイトルには「聖と俗のはざまで」という副題がついていたらしい。
ロシア正教会が、時代ごとにいかに政治と結びついてきたか、あるいは弾圧され、あるいは方向転換してきたか、という話である。

ロシア正教は、その名の通り正教系、東方教会に属するキリスト教の宗派であり、ギリシャ正教やコプト教などと同じ系統になる。なので、ローマではなくコンスタンチノープルが現在の「第一位」の格を持つ教会になるのだが、近年起きたウクライナ教会の離脱に絡んで絶交状態になってしまっていたりする。そのあたりも、文庫版での補稿として付け加えられているのでとても親切。もし買うなら、2010年以降の動向も入っている新しい文庫版を手に入れたほうがお得だと思う。

ロシア正教の千年 (講談社学術文庫) - 廣岡 正久
ロシア正教の千年 (講談社学術文庫) - 廣岡 正久

*参考
キリスト教史がまた1ページ…ウクライナ正教会、モスクワ総主教庁管轄から離脱。
https://55096962.at.webry.info/201901/article_6.html


ロシアがギリシャ正教から正教系を学んで取り入れたことは知っていた。
コンスタンチノープルが陥落してイスラム支配下になったあと、東方の他の正教系教会とは疎遠になり、その間に伝統などの食い違いが出てしまったこともなんとなく覚えていた。
「第三のローマ」を名乗り、コンスタンチノープル亡き後は自分たちこそ最大の正教国家だと自負していたところまでは追えていた。

問題はそのあとで、ポリシェヴィキ派の台頭やレーニン政権下での宗教弾圧の時代のことは、あまり知らなかった…。

暗い時代は本の中盤から始まる。
改めてその時代の話の話を読むと「うわぁ…」としか言いようがない。ひたすら聖職者が殺されていくのである。インテリ層でもある聖職者を片っ端から粛清、拷問、追放していく、どっかで見たなこれ、っていう感じの歴史が展開される。共産主義とか民族純血主義って、なんかこう、似た方向に突っ張りたがるんだなって。

スターリンの時代には弾圧は緩和されるが、今度は、従わない聖職者はシベリア送りである。もともと信仰の厚かったロシアは、ソビエト時代には活動する教会の数が大幅に低下する災難に見舞われる。これが、のちに、「辺境のウクライナのほうが教会の数が多い」といういびつな状態に繋がっていく。また、生き残った聖職者は政府に忠実な者たちだけ、という、聖が俗におもねる状態も発生する。

歴史はある日とつぜん動いたりはしない。それまでの下地の上に積み重ねられた伏線の結果である。
現在のロシア正教の抱える問題の多くが、すでに百年近く前には芽生えていたことが分かる。


著者は、ロシアの教会を訪れると息苦しさを覚え、疲労困憊すると書いているが、この千年の歴史を読んだ後だと、なるほど、この重苦しさの上に生き残った教会ならそうなるな、としか言えない。千年のうちの最後の数百年がとにかく凄惨なのだ。
正教系の教会は色んな国で巡ってきたけれど、イスラム教国にあってもどこかあっけらかんとして、猫がのんびり昼寝していたエジプトのコプト寺院などとは全く違う。

私はなんとなく、共産主義政権下の教会弾圧と、チベットに対する中国共産党の弾圧を重ねて読んでしまったが、たぶんそれも正しくはなく、ロシアの味わった苦しみは、ロシアだけのものなのだろう。