パピルスはエジプト以外にもあるが、なぜエジプトでしか商業化されなかったのか。という話

日本語ウィキペイディアで参考資料にされている、「パピルスの秘密」という古い本が古本市に出ていたので、おっラッキー!という感じで入手。
著者サイン入りの上、なんか巻末に補足資料まで挟んであった…。

さすがに今から40年以上も前の本なので、資料として使うなら最近出た本のほうがいいし、今のご時制だとインターネットで検索すれば色んな資料が手に入ってしまうのだが、パピルス紙というものがまだあまり日本では知られていなかった時期の雰囲気というのが分かって面白かった。生パピルスが園芸店に並び、本物のパピルス紙が通販で買えてしまう時代とは違う。現地まで工房を探しに行ったり、製法を試してみたりと大変な苦労をしている。エジプトにあるパピルス研究所が日本で広く紹介されたのも、ようやくこの時代だったようなのだ。


E7sbKgUVoAchC9k.jpg

E7sbKhNUUAAJ6Wn.jpg

E7sbKj9UYAIzfNv.jpg


で、この本の中で、「パピルスはシリアやキプロスにも生えていたのになぜエジプト産のパピルスだけが流通していたのか」という疑問が提示されていた。
そこで著者は、エジプト人は特別な製法を知っていて、その方法を秘匿していたのではないかと考えた。またナイル川の特殊な成分が作用して、特に高級なパピルス紙を作れたのではないかと、実際にあれこれ実験をしている。ナイル川に流れ込む生活用水の汚染により、微生物が繁殖しやすくなっており、その微生物で繊維が腐って癒着しやすくなったのでは、など、色んな複雑な説を考えていたようだ。

だが今の時代だとそのへんは言及されることはもう無くなっている。
というか、特にナイル川の水を使わなくてもパピルス紙が大量生産されるようになった時代なので、「特別な何か」は必要ない、という結論に至っているのだと思う。

おそらく、パピルス紙がエジプトでしか生産されなかった、というのは、より厳密に言えば、「コスト的にペイ出来るほど効率よく大量に生産できる場所は、エジプトくらいだった」なのだと思う。

自分で実際にパピルスを育ててみると分かるのだが、パピルスというのは一定の日照時間と温度があれば、凄まじい勢いで伸びるのだが、気温が下がってきたとたん、成長がぴたりと泊まるのである。25度以上ある時は本当に、ものすご勢いで増殖していた。逆に、冬はほとんど枯れたようになって仮死状態になっている。

だから、年間通して気温の高い期間が長いエジプトのような場所でなければ効率的に材料の収穫ができない。
そしてパピルスはほぼ水なので、乾燥させるのにかなり時間がかかるのもやってみると分かる。

参考:
古代のパピルス栽培と、現代パピルスの観察から
https://55096962.at.webry.info/202009/article_10.html

しかも、急速に乾燥させないとカビ臭くなってくる。エジプトの夏は乾燥して雨もふらないから適しているが、夏に雨季が当たる地域だと厳しいだろう。
大量生産に必要だったのは、製法というよりは気候条件なのだと自分は思う。


そんなわけで、研究内容としては新しいものを使ったほうがいいなと思ったのだが、資料をこまめに漁って、古代の「パピルス」という用語の使われかたや、いつからペーパーという言葉が使われだすのかなどを考察したり、パピルスのサンプルを観察したり、豊富な資料を組み合わせて紹介しているのは凄い。しかも当時は資料データベースなども無いわけで、ひたすら時間をかけて情報を探していくしかない。
昔の研究を引用するばかりで自分で調べてこない研究者も多い中、これは本当に頭下がる。

先達の様々な苦労の上に今の知識があるんだってことは、忘れないでいたいと思った。



あとおまけ:

パピルスは食べてもそんなに美味しくないのでは。ギリシャ人の書いてる内容がいまいちわからない
https://55096962.at.webry.info/202105/article_26.html

エジプトのパピルス文書を分析したら、使われてないはずの銅を含むインクが使われてたらしい
https://55096962.at.webry.info/201711/article_22.html

古代エジプトのパピルス群に使われるインク成分の最新研究。ヒエラティックにも銅入りインクが使われていた
https://55096962.at.webry.info/202011/article_5.html