地球は過酷な場所だった。「人類と気候の10万年史」

地球の気候は、ここ最近が安定していただけで過去にはめちゃくちゃ変動しまくっていたことがある。
中世の小氷河期や縄文時代の海進はじつはまだ穏やかなほうで、過去には氷期なのにとつぜん現代なみの温度まで上昇し、さらに翌年に元通り下がる、といった無茶な変動さえしていた。
そんな激動の時代を生き抜いてきたのが今の生物たちである――。

という話を、具体的にデータを積み上げて解説してくれている本がこちら。
人類史のスケールでの解説もあり、後半は文化人類学や考古学に通じる話題になっているので、気候変動と人類の盛衰について語る場合も必携だ。

人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス) - 中川毅
人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス) - 中川毅

話は、最近話題になっている地球温暖化の話からである。
「気候変動を止めよう」のようなスローガンが叫ばれているが、実は地球の気候は予測不可能に変化しまくるものであり、あるべき本来の気候、などというものは存在しないという話。また、温暖化が実際どこまでいくのかはわからないが、過去の気候変動を見ると、気温の上昇には上限があり、逆に下降した場合には全球凍結(スノーボールアース)までいく可能性がある、という。

そもそも地球は、長期でみると少しずつ寒冷化している。
もし人類の活動によって、来たるべき氷期が遅らされているのであれば、それは良いことなのか悪いことなのか。
少なくとも、ここ数万年は「例外的に」温暖なまま安定していた時代であり、いつまでも続くものではないのが確実だ。そしてたぶん、人間が何かする/しないは関係なく、地球の気候はまたいつか大きく変動する時が来る。

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圧巻なのは、湖に堆積した何万年もの堆積物を分析して得られた、ここ10万年の気候変動である。
(放射性炭素年代測定の世界標準となる指標が日本の湖とは知らなかった…)

地球の気候には、人がどうこうする以前に地球自身の動きが関わってくる。公転軌道が楕円から円に近づいてまた楕円に戻る、という10万年単位の動きや、回っている独楽の頭がブレる動きと同じ歳差運動によって、太陽から放射される光の当たり方が変わるのだ。これは、日本の水月湖での観測だが、現代より寒い時期のほうが多い。そして現代と同じくらいの気温だった時期はほんの一瞬しかない。
人類が爆発的に増え始めたここ最近の気候は、本当に「例外的に」温暖だったのだとデータから判る。

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また、植生もこんななに変動している。
湖に蓄積された花粉の量から推定される周辺の森についてだが、温暖な時期はスギやカシが多く、寒いとツガやカバノキだ。要するに沖縄の森か北海道の森か、みたいなカンジ。水月湖の定点観測でもこんなに植生が変動しているのだ。縄文時代の人がクリやカシを建材に使っていたといっても、それらはほぼ直近1万年の世界にしか存在しない。

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後半では、人類がなぜ1万年前まで農耕を始めなかったのか、という話も出ている。
そもそも気候が温暖な状態で安定したのがそのくらいだったからだろう、というのが、この本での意見である。私もそうだと思う。
氷期はずっと寒かったわけではない。むしろほぼ毎年、気温が乱高下していた。その状態では農耕はリスクにしかならない。気候が安定し、来年の予測がたつようになってはじめて農耕は有効な食料調達手段となり得る。

人類はもっと前から農耕技術を習得できる可能性があったけど、あえて「やらなかった」のでは? 

農耕に食料調達を頼ると、気候変動に弱くなる。
実際、マヤ文明は気候変動が衰退の原因だとも言われている。現代人が体験している以上の冷夏と猛暑を数年おきに繰り返す世界だと、とにかく色んな植物を蒔えていて、どれか実れば儲けもの、くらいじゃないと農耕は成り立たない。

やるなら地下だろうなあ…。
ハキリアリは5000年前からずっと農耕やってるけど、気温の変動があまり影響しない地下で暮らしていたから出来たんだと思う。あと、育てているものがキノコなので気候変動の変化も受けにくかったんだと思う。



この本では、地球温暖化や気候変動への警鐘が正しいとも間違いとも言っていない。一貫してデータを出して過去の地球の気候というものを教えてくれている。
地球環境は予測不可能で、気温が乱高下するような変動の時代など当たり前だった。今は安定しているものの、また乱高下の時代に戻ったとしても不思議はない。重要なのは、気候変動にどう対応して生き残るか、ということである。

そもそも、人類が何もしなくても、地球の気候は地軸の傾きや公転周期の変化で変わる。その意味では、今の安定した時代は必ず終わる。
その時、気候変動に弱い農耕に頼って生きている今の人類は、果たして生き残れるのか?

著者が最後に書いている、100億人もいるんだからどうにかなるだろ! という科学者的な楽観思考はけっこう好きだ。
悲観的になったり大騒ぎしたりするのは意識高い人とか環境宗教でメシ食ってる人に任せておきたい。重要なのは、これまでの気候激変の時代を生き抜いてきた僕らが、いつか必ずやってくる次の激変の時代も生き残るということなんだと思う。