ナイルの水源に雪山はあるのか。古代人の考えた「月の山脈」伝説と実態の違い

かつて、古代ギリシャ人はナイルの水源に「月の山脈」という雪山があり、その雪解け水によって増水が起きるのだと考えた。
現在、その「月の山脈」というのかウガンダにあるルウェンゾリ山近辺のことで、山の麓にあるという湖もその近辺のどれかだろう、というのが定説となっている。

 しかし、実際にはそこからの雪解け水はナイルの増水と関係ない。

――という話をしたい。

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●伝説

古代人たちは、ナイル川がどこから流れてくるのか、どのように増水が起きるのかについての正確な知識を持っていなかった。様々な説が挙げられた中の一つが、どこかにある「月の山脈」から流れてくる雪解け水だという説。しかしこれも確かとは言えず、ヘロドトスなどは自著「歴史」の中で、「なぜ暑い地域に雪があるのか」とツッコミを入れている。


●現実の地理との比定

しかし「暑い地域の雪」は実は存在した。世界で唯一、赤道直下なのに万年雪のある山、それがルウェンゾリである。
のちにアフリカ内陸が行われるようになると、雪をかぶる山も、水源にあるという巨大な湖も実在することが判明した。その一つが、白ナイルの水源であるヴィクトリア湖だ。本当ならここで「伝説は真実だったんだ!」で終わりたいだろう。
しかし実際には、その雪山の水が、ナイルの増水とは関係なかった。


●ルウェンゾリから流れ込む水はほとんどその場で蒸発してしまう

以前、ナイルの水源から河口までの水量を調べてみたことがあるので、詳しくはそちらを参照してもらいたい。

ナイル川の水はほとんどエジプトに辿り着かない。途中で蒸発するか使われてる。という話
https://55096962.at.webry.info/202103/article_21.html

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で、ルウェンゾリから水系がつながるとすると、おそらくアルバート湖になるのだが、ここは流入65億立方メートルに対し、蒸発などで亡くなる水が25億立方メートル。なんと4割が消失してます。当たり前ですね暑いですからね。赤道直下なんだからそりゃ蒸発もするわ。
南から回り込んでヴィクトリア湖にも繋がる水系があると考えても、ヴィクトリア湖は流入量より蒸発などで消失する量が多いので、たとえルウェンゾルから雪解け水が流れ込んでいたとしても下流には流れない。

そもそも、白ナイルは、途中で滞留する湖が多すぎて、しかも流れてる地域が暑すぎて、蒸発量もハンパないことが判る。ナイル川の下流まで辿り着く量はごくわずかなのだ。


●白ナイルはナイルの増水を起こさない

そして、この図を見て判るとおり、実はナイル川の増水期の水量の大半は青ナイルから来ている。
青ナイル川も雨季にドカ雨が降るのだが、河口までの距離が短いこと、途中に大きな湖などがなく一気に流れることから、下流まで辿りつく量が多い。ちなみに途中で合流するアトバラ川は、雨季にだけ水が流れる川である。そこからの流入量だけで120億あり、白ナイルの150億と競っているくらいなのだ。
白ナイルは下流のスーダンやエジプトでいう「ナイルの増水」の主要因ではなく、増水を起こすだけの水量がない。


●というわけで、結論に戻る

古代人が考えた伝説の水源、雪を被った「月の山」は確かにあったのだが、そこは増水を引き起こす原因となる場所ではなかった。
増水を引き起こすのは、白ナイルと青ナイルの水源に降る雨季の雨、特に青ナイル側の雨が重要、というのが現代の知識から導き出される答え。
ナイルの増水に雪解けは関係ない。

なお、現在は温暖化の時代のため、ルウェンゾリの氷河は年々後退しつつあるという。
してみると、皮肉なことだが、現代のルウェンゾリが吐き出す雪解けの水は、古代よりも多少増えているのかもしれない。


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最近出た「古代エジプト全史」にも雪解け水説が載ってて、えぇ…って思ったのでちょっと書いておいた。
しかも青ナイル川の話とされてたんだけど、青ナイル側はそもそも雨季が夏の上に冬でも氷点下にならないっす。なんか古典文学のまんま更新されてない記述をそのまま使っちゃっただけだと思うんだけど…。
最新の説を載せるってコンセプトだったら、地理の情報も更新しておいてもらいたかったかなぁ。
古代エジプトジャンル、「昔からなんとなく慣習で書き継がれてるけどよくよく検証してみたら根拠がない」みたみたいな罠がホント多いんだ。

というわけで、雪解け水関係ないです…特に青ナイル川はぜんぜん関係ないですね…。

雪解け水の話してる本があったら、たぶん、古典研究の情報に引きずられてるんだと思います。