考古学の新時代。「土からのDNA採取」で見える古代の生き物たち

考古学も「科学」のジャンルなので、いつまでも愚直に土を掘っていればいいわけではない。
ドローンを飛ばしたりランドサット映像を解析したり、土器の内側にこびりついた焦げ跡から食べたものを探ってみたり、DNAを解析してみたり…。
新たな技術が次々と生まれ、今や丸焦げの巻物の中に書かれた文字すらある程度は復元可能な時代になった。新しい技術は、新しい知識への扉でもある。限りあるパズルピースをこねくりまわして、昔ながらの「夢とロマン」の世界に閉じこもっていると、結局はオカルトと変わらなくなってしまうのだ。

というわけで、今回は「環境DNA」というものを用いた分析手法が盛んになってきて、骨や遺物が一切なくても、「その時代の土」さえ残っていれば、かつてそこにどんなに生き物がいたのかが分かってしまう、という話をしたい。


環境DNA(eDNA)というのは、ざっくり言うと、生きている環境に散らばっている生物の細胞のDNAのことだ。
生きていれば髪の毛が抜けたり、皮膚が剥がれ落ちたりするし、排便から食べたものの細胞と一緒に自分自身の腸壁などからはがれた細胞も混じっていく。そうしたものを回収すれば、そこに生きている生物の種類や生息数がある程度わかるのだ。

湖で使われた研究は、たとえばこれ。

ネス湖のネッシーの正体は巨大ウナギ! という報道→実は元の報道はちょっと違う
https://55096962.at.webry.info/201909/article_6.html

ネス湖にネッシーがいるなら、当然ネッシーの細胞もどこかに漂っているはずなのだが、残念ながら今のところそうしたものは見つかっておらず、代わりに、うなぎのDNAがたくさん回収されてきた。うなぎが巨大化すればネッシーっぽく見えるだろう、というのがこの研究の結論だ。

また、デニソワ人の生息地や、いつからアジア近辺にいたのかを調べようとした研究で、こんなものもある。

デニソワ人がそこに「いた」痕跡を環境DNAの分析から発見。
https://55096962.at.webry.info/202011/article_18.html


現在では、ネアンデルタールやホモサピエンス、デニソワ人などのDNAの特徴は解析されてサンプルがある。
骨を見つけられなくても、土の中に残されていたかすかなDNAの痕跡さえ拾えれば、既存サンプルとマッチングさせて、それが何人で、どういった集団に属するのかがある程度わかるのだ。

そして、以下の研究では、3万2,000年前から1万7,000年前まで連続した6つの堆積層からサンプルをとって、それぞれの時代である定点の生物がどのように移り変わっていったのかを復元しようとこころみている。中には現生人類や、既に絶滅してしまったオオカミの痕跡なども含まれているらしい。

DNA from dirt can offer new view of ancient life
https://www.sciencemag.org/news/2021/07/dna-dirt-can-offer-new-view-ancient-life

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もしここにヒトが住んでいたのなら、その地層から出てくるものは、その次代のヒトが食べていた動物のDNAが多くなるだろう。もし動物のねぐらだったなら、その動物由来のものや、その動物が捕食していた別の動物由来のDNAになるはずだ。その場所がかつてどういう状態だったのかによって結果は異なるだろうが、使い方によってはとても大きな意味を持つ。

たとえば、ある動物が「いつ絶滅したのか」や、ヒトが「いつそこに到達したのか」を調べたい場合だ。

これまでは、骨が出てこなくなる時代をもって「絶滅」とみなし、遺物の出土をもって「ここにヒトが来ていた」としていたわけだが、これからは、土壌まで調べて「骨は見つからないけどその後の時代からも少量のDNAが出てくるから実はまだ生きていたな…」とか、「遺物は出てくるけどDNAがほぼ出ない…短期間留まっただけで定住はしていないのでは」といった推論を出すことが出来るのだ。

なので、遺跡を発掘する際は、サンプル土壌もきっちり残していかないといけない。(もっとも、最近の発掘だと全部掘るなんてことはないはずなのだが)

少量のサンプルでも、はるか昔の壊れたDNAからでも情報を取り出せるようになった現代。
考古学の世界は大きく変わろうとしている。
DNAの残りづらい土壌や環境は確かにあり、おそらく日本の考古学ではあまり普及しないと思うが、時代に乗り遅れて面白いものを見逃すテはないのですよ。