時には昔の話をしようか… 光ケーブルとクマゼミ被害の話

夏ですね。セミも鳴き始める季節です。
というわけで、クマゼミとインターネットの話をしたいと思います。

クマゼミは光ケーブルを木の枝と間違えて産卵することがあります。かつてはそのせいで屋外引き込み線がボッキボキに折られ、夏になるたびに何百というご家庭で突然インターネットが繋がらなくなり、ISPや回線業者が悲鳴を上げる時代がありました。しかし今は被害は(ほぼ)ゼロです。なぜかっていうと、ケーブル開発者ががんばって産卵されにくいケーブル、あるいは産卵されても中の芯が傷つかないケーブルを開発したからです…。

西日本の方、今、夏になってもある日とつぜんインターネットが繋がらなくならないのは、職人たちの涙ぐましい努力のお陰なんです。
クマゼミの声を聞くときは思い出してください…
光ケーブルの耐久テストのために、何年もセミを捕獲して来ては飼い続けた人々がいたことを…。

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★時系列

光接続のインターネットが登場した後、夏に謎の断線が起きる事象が報告される
原因がクマゼミらしいと判明
→2002年ごろ

一般家庭への光ファイバ普及とともに被害が拡大、
クマゼミの多い西日本では年間1000件以上になる年も
→2005年ごろ

光ファイバがクマゼミ対策で進化
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20071002/283583/
→2007年

クマゼミによる光ファイバー断線、新型ケーブルにより 3 年連続で被害ゼロ
https://srad.jp/story/11/11/08/013241/
→2011年

中の人、むかしISPにいたんでこのへん最初のほうから知ってて、謎の断線の原因がクマゼミの卵ってわかったときは「マ?? セミの産卵管ってあれブチ破れんの??」って感じでしたね…。

詳しいメカニズムとかはNTT西日本が出してるPDF参照
https://www.ntt.co.jp/journal/1102/files/jn201102075.pdf

光ケーブルには「ノッチ」と呼ばれるみぞが真ん中にあります。
これが何かというと、真ん中の光の芯線を保護する外皮をはがすための切込み口です。屋外や壁の中なら外皮つけたままでいいんですが、宅内の終端装置につなぐ時は先端の外皮をはがして、光ケーブルの本体である芯線を露出させた上で終端装置につなぐのです。多分、業者さんとかが自宅に来た時そういう工事をやっているはず…。

このノッチ部分が産卵にちょうどいいわー、と針をぶち込まれると、その先にある芯線が傷つくか折れるかします。しかもクマゼミ、少しずつずらして連続して卵を産む習性があり、完全に断線しなくても接続不良になりやすかった。

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そこで、最初に開発されたのが、ノッチを無くして芯線の周りにガードをつける方法。これなら産卵されても大事な芯線は守れます。
ただし、工事のさいの手間がむちゃくちゃ増えてしまった。

元々、ノッチという切り込み線を入れていたのは、光の芯線を出しやすくするためだったわけです。それが無くなり、しかも硬すぎる皮膜は専用の器具じゃないと切れませんでした。工事業者からの評判最悪です。そこで開発され、2007年あたりから投入されたのが、「適度に硬く産卵されても芯線が傷つかない。しかもクマゼミが産卵したがらない生木に似た感触」というこちらのケーブル。

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これを開発するために、ちょっとずつ材質を変えたケーブルを作って、実際にクマゼミを飼って産卵させてみるという地道な実験が繰り返されました。実験室での実験、フィールドテスト、どちらも感触よし。これならノッチもあり、普通にペンチで裂けるので手間もコストもかかりません。

かくて、この「対クマゼミ仕様」光ケーブル投入によって、2011年にはクマゼミ禍に対する勝利宣言が出されたのでありましたーー。



今となってはこのケーブルが当たり前なので誰も意識しないと思いますが、夏になるたび光ケーブルを破壊されていた時代の回線業者の悲鳴は、それはそれは絶望に満ちたものでありました。顧客からはさっさと直せ言われるし、工事の手が回らないし、そうこうしてる間に次の断線が発生するし。
夏の3ヶ月で1000件断線だと、単純計算で1日10件くらいですからね。お察しください。

そんな戦いの記事も、時が経ちインターネット上からはぽつぽつ消えていきます。
でも僕は忘れない。あの夏に聞いたクマゼミの声と、業者の悲鳴を。ありがとう、開発者の皆さん。ありがとう。