トロイア戦争の概要が一通りわかる良入門書「トロイア戦争 歴史・文学・考古学」

歴史書コーナーにあったけど、タイトルどおり「歴史」視点の第一部、「文学」視点の第二部、「考古学」視点の第三部に分かれているので、実はどれでもあったりする。全部の視点をまとめた概要書になっているのでバランスも良く、初心者でも読みやすいと思う。

トロイア戦争:歴史・文学・考古学 - エリック・H・クライン, 西村 賀子
トロイア戦争:歴史・文学・考古学 - エリック・H・クライン, 西村 賀子

歴史視点は、トロイアが存在しただろう時代の背景などがメイン。
文学視点では、実際に叙事詩として書かれたトロイア戦争についての分析などがメイン。
考古学は遺跡の発掘や粘土板文書の解読がメインとなっている。

それぞれの視点から見た最新の情報が書かれているのだが、自分は、とくに考古学の部分でヒッタイトの視点から見たトロイア戦争についての情報が多かったのが良かったと思った。トロイアがあっただろうとされるアナトリア西部は、ヒッタイト帝国の勢力圏に隣接しており、もし何か伝説の元ネタになる戦いが起きていたとしたら、ちょうどヒッタイトが滅びる少し前くらいの出来事ではないかと言われている。

実際に、ヒッタイト語の記録では、それらしき戦争が記録されている。
ただ、その戦争が何度も起きているために、「どの戦いが伝説の元ネタか分からない」。

現実的に考えると、伝説が起きた出来事を忠実になぞる必要はないから、おそらく、複数回の戦争の記憶が時を経てごっちゃになり、尾ひれをつけられたものがトロイア戦争の伝説なのだろう。


そう、ヒッタイト側はけっこう歴史の記録があるのよね…ただギリシャ側はリアルタイムの記録がないのよね…。
紀元前1,300年とか、1,100年とかのあたりだと、ギリシャは当時まだ、文字持ってないからね…。そのへん、むかし疑問に思ってちょっと考えてみたことがある。

ギリシャ語文献にヒッタイトが出てこない理由をもう一度考えてみた
https://55096962.at.webry.info/201510/article_13.html

この時は気づいていなかったけど、旧約聖書に出てくるヒッタイト(ヘテ人)は、アナトリアのヒッタイトが滅亡したあとでシリアまで南下してきた新ヒッタイトのほうのことのようなので、どのみち、ヒッタイト帝国の記憶が薄れてしまっていたのは確かだと思う。500年という時間は人の世代にして十数世代。それだけかければ、文字記録がなければ、大帝国ですら人の記憶からアッサリ消えてしまうのだと思う。口伝として歌い継がれていた戦争の記憶だけを残して。



一つ注意が必要なのは、現在トロイアとされているヒサルルクの丘は、実は、トロイアなのかどうか分からない
(この本だと最初の方でほんの少し触れられる程度)

トロイア=ウィリオスの町が、ヒッタイト語の記録に出てくるウィルサの町だろう、という仮説はほぼ確立されているものの、肝心のヒサルルクから町の名前を記したものが何も出てきていないからだ。そもそもあそこがトロイアじゃなかったとしたら、戦争の痕跡を探すとか、どの層が叙事詩の元ネタかとかを探す意味が無くなってしまう。

そのへんの話はこちらの本を参照。この本も面白いので。

トロイアの真実―アナトリアの発掘現場からシュリーマンの実像を踏査する - 大村 幸弘, 次郷, 大村
トロイアの真実―アナトリアの発掘現場からシュリーマンの実像を踏査する - 大村 幸弘, 次郷, 大村


どちらも本もそうだけど、読めば読むほど、トロイアの実態については仮説てんこもりで「結局どうなの? よくわからん」ってなると思う。まぁそうなんだよね。何千年も昔の話ってそういうもんなので。