古代エジプト神官ネスペルエンネブウの家系に見る「ご先祖様の記憶」~何代前まで遡れるのか

北欧やイングランドなど西ヨーロッパでは、口伝としてご先祖様の名前をずらずら並べて言えることが「家系の正当さ」を主張する方法だった。アイスランドのサガを見ると、本編とは直接関係ないと思われる、登場人物の家系が長ったらしく記載されているところは沢山見つかるだろう。

"ビュャルニにはもう一人の娘ユングヴィルドがおり、彼女はソルステイン・シーズ=ハッルスソンと結婚した。かれらの息子がマグヌースで、エイナルの父である。エイナルは司教マグヌースの父である。ソルステインとユングヴィルドにはまたアームンディという息子がいた。彼は盲目のソルグリームの娘シグリーズと結婚した。アームンディの娘がハッルフリーズ。彼女はアームンディの母である。アームンディはグズムンドの父。グズムンドの息子は…(後略)

「棒打たれのソルステインのサガ」/サガ選集/東海大学出版会"


さすがに1000年前の記録ほど豊富ではないが、古代エジプトでも家系図は大事にしていたようである。
残っている家系図で長いものはどれくらいかな…と考えた時、コンス神に仕えた家系の神官、ネスペルエンネブウさんのことを思い出した。彼は2006年~2007年のエジプト展で日本に来日したことがある。
彼の家系図を見てみよう。

当時のイベントページ
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2006/mummy/index.html

当時の図録に載っていた家系図

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神殿の碑文に書かれたもののほうが長く、棺に書かれたもののほうが短い。
ネスペルエンネブウの曾祖父にあたる人物の名前だけ異なっているが、これは神殿の碑文のほうの損傷が激しい箇所で、うまく読み取れなかったのではないかとされている。もし元々書き間違いがあったのだとしても、曾祖父の名前以外は一致しているので、かなり正確に伝承していることになる。

神殿の碑文で11世代。古代世界の寿命の短さを鑑みて1世代を25年としても275年。
日本で現代から遡ると徳川吉宗あたりの時代まで遡る家系図が残されていることになる。彼はとても由緒正しい、コンス神官の家系だったと誇れるだろう。

もともと古代エジプト人は、父系の家系図をよく残しているほうだと思う。歴代のファラオを記した王名表が代表例だ。
自分の生きている時代から数百年くらい前までは、記録をたどれば確証を持って語ることの出来た世界、というのは、文字を持たなかった他の文化圏からすれば驚異的だったのではないだろうか。なんか…ギリシャ人相手に「君たちの歴史浅すぎるやん」とかマウントとってたのも「そりゃそうだよな」って納得するなぁ…。

惜しむらくは、あまりに遠い昔のことすぎて、古代エジプトの家系図はあまり残っていないことである。