「カブトムシは昼動く」の研究から見る、あなたの自由研究を研究論文なみにする方法

ちょっと前に話題にしたコレの話である。

とっても面白い。外来植物の持ち込みで日本のカブトムシの行動パターンが変わるという研究
https://55096962.at.webry.info/202104/article_20.html

元論文
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/ecy.3366

従来は夜行性とされてきたカブトムシの中に、実は日中でも活動する個体がおり、どうも餌にする植物の種類や条件次第で行動パターンを変えてる可能性が出て来たという話なのだが、元々の研究データが小学生の夏休みの自由研究だったというので大きな話題になった。

小学生が研究したから話題なったのでは、などと、つまらないことを言う人もいたのだが、逆に言えば、小学生に出来るのだから大人も出来るのである。実際、私の周囲だと、十年以上ひとつの生物を観察しつづけて、専門家にデータを提供してアマチュアながら共同研究者のようになってる人なんかもいる。論文の体裁を整えて提出してくれる本職の人は必要だと思うけど、べつにデータ集めるだけなら誰でも出来るぞ? 疑問を抱いたならレッツトライ、やり方さえ分かればみんな昆虫学者だ。

さて、元論文を読んでみよう。
この研究は、毎日、決まった場所で、同じ方法でカブトムシを観察し、正確な記録をつけ続けている。根気のたまものだ。

生物学の研究の基本はひたすら対象を観察し続けることにあると思う。
たとえば、ハトが求愛行動の際にどう鳴いてどう振る舞うかを語るには、ハトの求愛の季節にオスとメスの鳩を並べてじっと見ているしかない。
特定の個体ではなく、多くの個体で同じ行動をとるのであれば、それがハトの"一般的な求愛行動"だと推測できる。あとは求愛行動の時間の長さや、どういった個体で成功しやすいかなどのデータが集まれば、立派な研究論文が完成するだろう。

ここで注意が必要なのは、単に眺めているだけでは「観察」にはならないということだ。

 ・特定の個体だけの行動でないことを示すため複数個体を観察する

 ・「鳴き方」であればどのような鳴き方か、「体を回転させる」であれば何回転以上/どういう回転の仕方か、などの条件を確定しておく

 ・その条件に当てはまる事例を集める

 ・1,2例だけでなく十分な数の観察例が必要

 ・求愛行動と推定した行動が確実に求愛行動だというために、求愛以外では一般的でないことも観察しておく

などの条件を満たす必要がある。

なんとなく眺めていて、「あいつ、いっつもグルグルしながら鳴いてメスにすり寄ってるなあ」と思っているだけでは研究にはならない。そのグルグル回って鳴いているパターンが他の個体でも見られ、しかもいつもメスに対して行われているのであれば求愛行動の可能性が高いが、オスに対しても行われるとか、直後にケンカになりやすいのであれば威嚇行動だと推定される。

なんだ、その程度で研究になるのか。と思われるかもしれないが、"その程度"がけっこう大変なのである…。
何しろ根気がいる。そして運や、対象となる生物の知識も必要だ。

珍しい蝶の生態を調べようとしたら、その蝶がどういう場所で生活していて、どう成長して、いつ蝶になるのか、どこで交尾して世代交代するのか、といった基本情報が無ければ何も出来ない。先行研究で調べてくれてる人がいなければ、まず自分で調べるところからスタートだ。そうやって苦労して調べたものを論文にして発表すれば、研究になる。マイナーな生物や、調べるのが大変なところに住んでいる生物ほど研究者が少ないのも、苦労するわりに書ける論文が少ないからかもしれない。


今回のカブトムシの研究は、ほぼ一日、ひたすらカブトムシを観察している。
なんとなく、「たまに昼間に活動しているカブトムシがいるな…」と眺めているだけなのと、意図を持って観察することの違いとの差は明白だ。

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24時間かけてカブトムシの数と行動を分析したグラフ、これがすごい。
一日の時間を午前/午後/夜間に分けて、それぞれの時間で活動中のカブトムシを数えている。純粋な数は確かに夜間が多いのだが、実は夜から午前中まで活動している個体もかなり多い。というか一日中ずっと動き続けている個体もいる。寝ないですむ昆虫ならでは、というべきか。

2.PNG

ここまでデータを集めれば、あとはデータの加工しだいで自由研究は論文になれる。

論文っていうのは、半分が研究の着眼点と思い付きの領域で、残りの半分が情報を纏めるテクニックだと思う。思い付きや自由な発想の部分は子供のほうが幅が広い。基礎知識がないと出てこない発想というのもあるけれど、そうでなければ子供の自由研究のほうが実は研究のタネを多く秘めているのかもしれない。
逆に、大人が優れているのはテクニックの部分だ。論文にはテンプレ的なものがあって、そこに沿ってデータを並べて、導き出された推論や結論を書くという流れ。

未知なるものに挑むのに、別に年齢とか学歴とかは関係ないと思うんだよ。身近な謎にこそ、老若男女関わらず挑んでみんなで科学者になってもいいんじゃないか。