ヒトと"口腔内の細菌"の共生から見る進化の歴史。

これはちょっと面白そうだな、と思った研究。古代のヒトの歯の化石に残る痕跡から、当時、口の中にどんな細菌がいたかを調べ、その細菌がいつから人間と共生関係にあったかを調べようというもの。

前提知識として、全ての人間は数多くの細菌と共生関係にある。 有名どころではアシドフィルス菌やビフィズス菌など。人体によい働きをする良玉菌と、よくない働きをする悪玉菌、どちらでもない日和見な多数の菌たちがいて、それらが身体の働きを助けてくれている。腸は菌がとても多いところだが、口の中も実はたくさんの菌が住み着いている。それが口腔内細菌だ。

The Surprising Evolutionary History of our Oral Bacteria
https://www.shh.mpg.de/1995366/the-surprising-evolutionary-history-of-our-oral-bacteria

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腸は真っ先に腐ってしまう部位なので、腸内細菌は研究したくてもなかなか研究出来ない。
しかし歯は人体の中で最も丈夫な部位で、かつ、歯石という形で食べたものや菌の痕跡が固まって残りやすい。今回も歯石の中から細菌の痕跡を調べているが、遺伝子のカケラを繋ぎ合わせて復元しているようなので、なかなか大変な作業だと思う。たぶん、細菌のゲノムなのでそれほど複雑でなく、かつ数も多いので一部だけでも残っていればパズルピースのように組み立てているのだが、研究する人も大変だなこれ…。

見つかった中には現代の人類の口の中に住んでいるものと同じものや、なんとヒトが誕生するはるか以前の4,000万年以上前から霊長類の口の中に住んでいる種もあったという。ヒトがヒトになる以前から共生し続けていた菌…なのにあまり研究されていないので名前なかったりするそうだ。ダメじゃないか! 早く名前つけてあげないと!! はたらく細胞に出演出来ない!!!(気にするのそこか)

あと面白いのは、この口の中の細菌というのは、通常、幼児の頃に親など育ててくれている人から引き継ぐものだということ。
腸内細菌も、分娩の際に母親から引き継ぐことが多い(なので帝王切開だと引き継がれない)らしいので、異なるヒト属の間で細菌の種類が一緒なら、種の接触の証拠になるという。
現生人類とネアンデルタールはある時期まで同じ菌を保有することがあったが、ネアンデルタールが消滅する頃からそれが見られなくなるそうで、現生人類とネアンデルタール人の人口の置き換えが発生したことと関連していると考えられるそうだ。

また、現生人類とネアンデルタールに共通するものとして、デンプンを糖に分解する細菌の存在があるという。
この菌が口の中に住んでいるということは、現生人類とネアンデルタールが分離する以前から、ヒトは植物のデンプン質を多く食べていたことを意味している。(餌が途切れると菌は死滅してしまうため)

脳の活動には大量の糖分を必要とする。これは、頭を使うと甘いものが食べたくなるからみんな知ってることだと思う。
デンプンを分解して糖にする分解能力は、巨大な脳の維持には絶対必要な機能だ。この菌との共生は、もしかしたらヒトの脳の肥大化にも関係しているのかもしれない。


腸内細菌もそうだが、人間の身体に住む多くの菌たちは、まだあまり研究されておらず「これから」の状態にある。
しかし実は、共生菌たちは無視できない大きな働きをしていたらしいことが、少しずつ分かって来ている。今回の研究から、菌との共生の歴史は相当長いんだなということも見えてきた。
もしかしたら、共生できた菌の違いが、現生人類と他のヒト属との命運を分けたものだった、なんて可能性も出て来るのかな…?