古代エジプト人のテーブルマナー: カトラリーなしの時代のお食事とは。

既に新しい博物館への遺物の移転が始まって、今は使えなくなってしまったカイロ博物館の展示物の解説本を眺めていたら、ちょっと面白いものを見つけてしまった。アマルナ時代の王女の絵で、おそらく練習用に描かれたものだろうという。面白いのはお食事シーンが描かれていることで、実は古代エジプトの絵では食べ物を前に座ってる絵は多くても、実際に何か食べてるものはそれほど多くない。

この絵は王女のお食事シーンで、さすが王女、いいもの食べてるな…って感じではあるのだが…。

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ご覧のとおり、鳥の丸焼きにがっぷり食らいついている姿で描かれている。

もちろん、肉片では何を食べているか分からないので、絵画表現として鳥の形をきっちり描かないといけなかったという事情は分かる。しかしだとしたら、彼女はどのように鳥肉を食べただろうか。実は、この絵の表現と大差ない、ほぼ丸かじり状態だったのではないかと思うのだ。
なぜなら古代エジプトには、食事用のフォークなナイフが、まだ無いのだから。

 …そう、お化粧用のスプーンやカミソリなどはあるのに、である。

古代エジプトの台所用品はほぼ見つかっていないのだが、おそらく鋭い石や貝殻を肉切り包丁がわりにするくらいで、ナイフといえるようなものは、あまり一般家庭では使っていなかったのではないかと思う。
現代でもアラブ文化圏のテーブルマナーは手が主体だが、古代エジプトも手をメインに使っていたのではないかと思う。ガチョウやカモなどの鳥肉は手で引き裂いてパンと一緒に食べる。そうなると、テーブル上でアツアツ肉を引き裂く王女という、かなりパワフルな姿も実際にあったかもしれない。

考えてみれば、我々は古代の王宮のお作法というものをほぼ知らない。
現代の感覚でいうところの王家の作法のようなものや、テーブルマナーに類するものはあったのだろうか。たとえばお肉は家長から順番にいいところを取っていくとか、肉は必ず少し残して下々に分け与えるとか、そういう習わしのようなものとか。

こうした、少し逸脱した品を見るにつけ、古代エジプトの壁画は日常生活をありのまま描いているようでいて、実際は理想化されたテンプレどおりの場面が多いのだなあと思い知らされる。知っているようで何も知らない。三千五百年の時の彼方は、はるかに遠き世界なのだ。