ただよう不穏と底抜けの明るさ「アヘン王国潜入記」

移動中、読む本ないかなとkindleでぽちぽちやっていたらオススメに出て来たので、とりあえずポチって読み始めた本。
最近はそんな風にして出会うものもある。

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫) - 高野秀行
【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫) - 高野秀行

この本は、1990年代後半にミャンマー北部の「ワ州」、アヘン製造のゴールデン・トライアングルの中心と言われた地域に行って村人と一緒にケシ栽培をした人の体験記である。既に20年以上が経過しているため現在の政治的な状況は当時と違っている部分もあるだろうが、麻薬というのがどうやって作られるか、という点で面白い。

アヘンは元はケシの花なので、まずケシを栽培する。農民たちが、お金のために、である。そして半分近くを軍が税と称して徴集してゆく。これは日本でいう納税のための米作と同じ。農業、なんである。しかも稲作と違い技術などいらない。ただ畑に種をまき、草むしりしながら待つだけ。(その間に野菜やコメなど別の作物を作りながら)

村人たちに犯罪という意識はない。コメなどと同じ、農業の一部なのだ。
アヘンは製造するけれど自分たちでは使わない。換金できるブツなのでお金が減ってしまうし、中毒症状がヤバいのを知っているからだ。ただ、病気の時や痛みを紛らわすなどでは使う。本の中で、死期の近い人がアヘン中毒者だった話も少し出て来るが…。


ところで、ワ州とはどういうところなのか。
この本の舞台であるワ州はワ族の住んでいる地域、である。

最近のニュースで、ミャンマーの少数民族、ロヒンギャ迫害についての話題がちょくちょく流れるが、ミャンマーにいる少数民族は別にロヒンギャだけではない。多民族国家なので多数の民族がいる。そして昔から中国系の住民が入り込んでいる。この本の舞台となっている北部などは、中国との国境がユルく、人もモノも大量に流れ込んで来るだけでなく、中国語が話されていたり、人民元が通貨のようになっていたりするらしい。そしてなんと政府の実効支配が及ばず、半ば独立国のようにふるまっているという…。

さすがに20年前の情報なので今はもうちょっとマシなのでは? とは思うが、何しろ外国人がそうそう入れない場所らしいので情報が少ない。
今はあまりアヘンは作ってないらしい、というくらいしか。
なるほど「潜入記」というだけあって、潜入なのである。


それにしても、やってることや出て来ることの「ヤバさ」とは裏腹に、写真の人々がみんないい笑顔なのは、どういうことだろうと思ってしまう。日本という国があることはおろか、外の世界の情報は一切知らず、狭い世界の中に閉じてその中に生まれ死んでいく。閉塞的な世界だがも生まれた時からそれしか知らないので特に不満も不平もない。ケシ栽培やアヘンの生成も農業の一環なので罪悪感など抱く隙も無く、まさに善悪の彼岸、だ。

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眩しいばかりの笑顔を見せている、この若者たちは、果たして戦死せずに生き残れただろうか。
村を出たがっていた子供は、その後、どうなったのだろうか。
どんな辺境でもインターネットが通じるようなった今のご時世、この時の潜入先だった村がどうなっているのか、どう変化したのかは、興味がある。

あと、中国から東南アジアへの資金援助や政治的な介入は、何十年も昔から当たり前にあったんだよな…と、これを読んで思った。
タイなんかは昔から華僑がいなきゃ国が回らないって言われていたけど。ミャンマーも北部はほとんど中国文化圏。


底抜けの明るさの裏に、拭い去れない哀しみのようなものが流れる、なんとも不思議な本だった。