死海文書が60年ぶりに見つかる!→「死海」文書じゃないし60年ぶりでも無い…。

映画ヱヴァンゲリヲンの完結が盛り上がっている時に流れたニュースなので食いついた人もわりと多かったんですがこれ、ニュースになった時点で色々と不正確な情報が混じってます…。

貴重な発見なのは間違いないんですけど死海で見つかっていないので死海文書ではないし、60年ぶりではなく「正式な発掘で見つかったのが60年ぶり」というだけで盗掘品の発見は今までも何度もあります。そして別に未知なテキストが出て来たわけでもないです。
なんかいろいろ勘違いが入りまくっているので、とりあえず説明…していきますかね…。


聖書原型の死海文書、60年ぶり断片発見 ユダヤ砂漠で
https://www.asahi.com/articles/ASP3K3J36P3KUHBI009.html

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●「死海文書」とは何か/今回見つかった場所は「死海沿岸」ではない。

まずはここから。

"「死海文書」とは

狭義の意味では、死海のほとりクムラン地方で見つかった、旧約聖書の内容を記した文書集のこと。現存する最古の旧約聖書である。時代としては、前3世紀から、クムラン地方がローマ軍に支配されるようになる後68年までの間と見られている。つまり逆に言えば、それ以前の聖書の内容は物証として残っていないことになる。文書数は800点を越えるが、旧約聖書の写しとして完全に残っているのはイザヤ書のみ。それ以外は断片。

発見は1947年~1956年。巻物のイメージが強いが、筆記に使われたものは羊皮紙、獣皮紙、パピルス、銅板など様々で、巻物とは限らない。また言語のヘブライ語だけではなくアラム語、ギリシア語のものもある。

広義の意味では、同時代のほかの地域から見つかった類似の文書についても死海文書と呼ぶことはある。ほかの地域とは、例えばマサダ、ワディ・ムラッバト、ナハル・ヘヴェル、ナハル・ツァリームなどである。"



これは以前の記事でも書いた内容だ。

死海文書の眠る12番目の洞窟が見つかったよ、というニュースが判りづらかったので補足する
https://55096962.at.webry.info/201702/article_12.html

「死海文書」とは、死海のほとりクムラン地方で見つかった古い文書群のことであり、それ以外の地域で見つかったものは「死海文書」ではない。

たまに近くの地方で見つかったものまで含めて「死海文書」と呼ぶ研究者はおり、今回はその広義の意味での「死海文書」という呼び名であればギリギリ入りそうではあるが、発見場所がユダヤ沙漠(Judaean Desert)のエルサレムの南あたりなので、かなり厳しいというか離れすぎていて、死海文書と呼ぶのは適切ではない。実際、発見チームもそう呼んでおらず、「古い聖書の一節が新しく見つかった」という発表をしている。
もし今回のものを死海文書と呼んでしまうと、イスラエル周辺で見つかった古い時代の聖書のバージョンをぜんぶ死海文書と呼ばなくてはならなくなり、名称の定義が変わってしまう。

範囲が紛らわしく、また発見場所以外にこれらの書物を明確に定義することが出来ないため、本当に死海のほとりで見つかった文書だけを「死海文書」と呼ぶことを私としては推奨したい。

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●「死海文書」にまつわる近年の発見の発見あれこれ

各種メディアの記事では、60年ぶりだの65年ぶりだのという数字が飛び交っているが、死海文書の発見自体は近年でも何度かあった。
どこで見つかったかというと闇市に流れていた盗掘品が発見されたのだ。こうした発見は珍しくなく、大きなニュースにならなくても頻繁に流れてくる。

25 New 'Dead Sea Scrolls' Revealed
https://www.livescience.com/56428-25-new-dead-sea-scrolls-revealed.html

近年イスラエルさんが遺跡の発掘に力を入れているのは、こうした盗掘品があまりに多いので、先回りして保護しないとマズいのでは、と危機感を持ったせいでもある。

なお、死海文書は非常に偽物の多いジャンルであり、出来の悪い偽物に引っかかりまくるコレクターもいる。
以下などはその代表例だ。

聖書博物館の所蔵する死海文書は全て偽物。2年を経て全ての鑑定結果が公表される
https://55096962.at.webry.info/202003/article_14.html

なので、今回の発見は「考古学者がキッチリ発掘した久しぶりの発見」ではあるものの、「ウン十年ぶりに発見された旧約聖書の古いバージョン」ではないのだ。




●「死海文書」とは何か/内容に真新しいものは出てこない。

というわけで、言葉の定義をはっきりさせたところで今回の「新しい巻物」の話だが、内容からいうと全く未知の内容は今のところ、発見されていない。というのも、死海文書も、ほぼ同時代の今回の文書も、聖書の内容を書き写した写本で、内容は現在に伝わっている旧約聖書とほぼ同じだからだ。

というか、仏教の経典と同じようなもので、信者が信仰のために書き写して所持する文書なので、オリジナリティが入る要素はなく、また、入っていてはいけない。みんな同じものを持ってる必要がある。
今回見つかったものが、↓こんな豆粒みたいな断片状態でも「これはxx書の一部と思われる」のように元テキストのアタリを付けられるのは、大元のテキストが分かっているからだ。

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最初の部分の死海文書とは何か、というところで「文書数は800点を越えるが、旧約聖書の写しとして完全に残っているのはイザヤ書のみ」と書いたが、死海文書と呼ばれているものは、大半がこんな細切れなのである。

そしてこの細切れの一片にものすごく高い値段がついてコレクター間で取引される。だから偽造品がとても多い。

※今回発見されたものの写真や説明などは以下記事から。
2つめのリンク先には発掘チームも出て来る

Israeli archaeologists discover dozens of new Dead Sea Scroll fragments in Judean Desert cave hidden for nearly 1,900 years
https://news.sky.com/story/israeli-archaeologists-discover-dozens-of-new-dead-sea-scroll-fragments-in-judean-desert-cave-hidden-for-nearly-1-900-years-12247650

Biblical scroll discovered in 'Cave of Horror' in Israel
https://www.livescience.com/biblical-scroll-discovered-cave-of-horror.html

なお、聖書の断片と一緒に、持ち主だった人の私的な文書や手紙などが出て来ることはあるが、そちらは細切れになってしまうとほんとに内容が分からないので、なかなか資料になりづらい。そしてコレクターは大抵、聖書関連のものしか欲しがらないので、聖書に関係ないものが盗掘者に見つかった場合の運命は、あまり良いものにはならないと思われる。


●今回の発見が貴重なところは?

反乱を起こしたユダヤ人がローマによって追放されたという「バル・コクバの乱」と同時代の遺物が見つかっており、洞窟からは過去に、その時代に追放されたと思われる人骨も見つかっている。
また文書の書き写された年代も一致しているので、おそらく追放されたユダヤ人の持ち物だったと考えられる。

しかし文書の内容はギリシャ語で書かれている。
これは、当時のユダヤ人は実はほとんどヘブライ語が読めず、国際公用語だったギリシャ語のほうに精通していただろう、という学説とも一致する。国外移住したユダヤ人たちは多くがヘブライ語を使わなくなっていたようだが、イスラエルにいたユダヤ人も一般人はもしかしたらヘブライ語はよく判らなかったのかもしれない。

そうした、当時の状況を知る窓として役に立つ。
死海文書という名前で呼ぶのは適切ではないし、類似品の無い唯一無二のものとも言い難いが、古文書としては貴重な品である。




…という感じだ。

古い旧約聖書の写本はとにかく偽モノが多いので、私としては、「久しぶりに本物が出て来たかー」という感じだった。いや、ていうか、ほんと偽物多いから…。あと今回のもやっぱり豆粒みたいな断片でしたね。貴重なのは判るけどあれを研究するのは辛い。ほぼパズル。

どこからともなくオークションに流れて来る豆粒みたいな羊皮紙のカケラとか、やたら欲しがるコレクターがいるのよく判らないんですよね…。


*****
あとオマケ、死海文書には特に面白い内容はありませんが、エジプトで発見された古い聖書には、現在では存在ごと抹消された書も残っていたりします。このへんとか。
未知の聖書テキストを探すならエジプトに来ましょう。エジプトはいいぞ。

ユダの福音書を追え - ハーバート・クロスニー
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