古代エジプト新王国時代、泥で修復されたミイラが初めて発見される

タイトルだけで情報量が多い…。

まず、このミイラは棺と中身のミイラの年代が一致していない。ミイラは新王国時代の末~第21王朝ごろ(年代で言うと紀元前1300~1000年ごろ)のもので、棺よりも200年ほど古い。古い棺を再利用して埋葬されることはあっても、その逆は不可能なので、このミイラと棺のセットはコレクター向けに適当に組み合わせて売られたものだろうとされている。

また、入手したのは政治家のチャールズ・ニコルソン卿という人物で、オーストラリアに持ち込んだあと、シドニー大学に寄贈されたのだという。持ち込まれた時代は1800年代とのことで、まだエジプトでは観光客向けの遺物売買がカジュアルに行われていた頃だ。
そのミイラが最近になって調査され、今まで見つかったことのない、古代の破損に対する泥による修復の跡が確認された、というのが今回の話だ。

Never-before-seen 'mud mummy' from Egypt discovered in wrong coffin
https://www.livescience.com/ancient-egyptian-mud-mummy.html

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そもそもなんで泥で修復したのかというと、古代に盗掘にあい、ミイラが破損してしまったからではないか、と推測されている。

王家の谷のファラオや王族たちのミイラが、盗掘に遭ったあと神官たちによって包みなおされ、修復されている例はいくつかある。それと似たような感じで、墓の見回りか、墓参りの際に、遺族が盗掘に気づいてミイラを直させたのではないかと思われる。

しかし、最初に書いたように、泥でミイラを修復するという方法は今まで一例も見つかっていなかった。一般的には樹脂を使うはずなのだ。
この人はおそらく王や貴族のような位の高い人ではなく、そのため高価な樹脂ではなく廉価な方法で修復されたのではないかと思われるが、棺が別人のものなので名前すら分からず現時点では理由は不明だ。

修復の内容は
"Whoever repaired the mummy made a complicated earthy sandwich, placing a batter of mud, sand and straw between layers of linen wrappings."
とのこと。泥と砂に藁くずを混ぜて亜麻布とサンドイッチ状に固めた…という状態なので、たぶんこれギプスのイメージに近い。たぶんそれなら判る。

そして最近の破損には金属のピンで修復された痕跡も…と、これは余談になるのでおいておく。

問題は、死後の破損でミイラが修復された例はいくつもあるのに、泥で修復されたミイラが今まで一例も見つかっていないということ。これは、ある時代特有のものなのか。それとも、特定の地方や特定のミイラ工房の独自の習慣なのか。興味は尽きない。


ちなみに古代エジプト人の死生観では、死者の魂は死後に自分のミイラに戻ってきて供物を受け取ることになっている。
肉体が破損してしまうと死後の世界から戻って来られなくなるため、破損した魂の器を修復する必要があった。また、自分の顔を見分けなくてはならないので、顔の部分は念入りに手入れされ、生前の顔つきに似せるために詰め物をされたり、窪んでしまった眼窩に義眼を入れるなどもしていた。ミイラマスクを故人に似せるのもそのためだ。

古代人のミイラに対する感情や扱い方の一端を感じさせる発見なのであった。