現代的なビールの起源は16世紀から。ホップ使用の歴史と最近の研究

古代エジプトビールの話をしていた時に、ホップの防腐作用を利用したビールは近代のものだと言ったところ、ホップ利用はもっと古くからで8世紀にはもう使われていたはずだ、と反論してくる人がいた。
というわけなので、ビールへのホップ利用について簡単にまとめておこうと思う。

・ヨーロッパでホップが栽培されていた最古の証拠は確かに8世紀
・しかし当時すでにビールに使われていたという証拠は薄く、おそらく薬草としての利用
・ヨーロッパ全体で一般的にビールにホップが添加されるようになったのは16世紀以降というのが現在の無難なボーダーライン

このへん、ビールの歴史について語る本などでも混同されていることがたまにあるのだが、ホップを栽培した痕跡があることは、ビールへの使用とイコールではない。元々は薬草の一種として利用されていたにすぎない。中世初期のビールには、グルートと呼ばれるホップ以外の様々な薬味が使われていた。

いつからホップがビールにも使われだしたのかは諸説あるが、1516年にドイツ・バイエルン領邦君主 ウイルヘルム4世が出した「ビールには必ずホップを使用すること」という命令をもって、現代において一般的なホップ入りビールの地位が確立されたとすることが多い。現代人が思い描く「ビール」が確たる地位を得たのがこの時代である。それ以前のビールには、ホップが使われることはあったものの、必ず使われるものではなかったのだ。

そしてここに、最近行われた「ホップはどこから来たのか」という研究が組み合わさる。
詳細は以下の論文を見てほしいのだが、ホップの作物としての歴史をたどる上で植物DNAの分析が行われている。結論から言うと、ヨーロッパで栽培されているホップは中央アジアのものと近縁種だが、遺伝的に単一ではないので、人間の手によって分布が広げられたとは言い難い。おそらく長い年月をかけて自然に広まったもので、実際、ヨーロッパ各地のビールに使用されたものも元々そこにあった在来種だった。
ただし、ウラル・アルタイ地方では古くからホップが食物の腐敗を防ぐために使われていたため、使用方法が伝播した可能性はある。

ホップの探究
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010812373.pdf

hop.PNG

この研究結果から推測されることは、ホップという作物が伝播されたのではなく、腐敗を防ぐという文化的な使用方法が野生種のホップのある地域に伝播していき、いつしかヨーロッパまで辿り着いた。という可能性だ。

ただしここでも重要なのは、伝播元とされる中央アジアでは、ビールにホップを入れていたわけではないということだ。

というかビールではなく地元のはちみつ酒やどぶろくのようなもの、或いはスープなどに入れていたようで、伝わったものがあるとすればおそらく「ホップ入れると苦くなるけど腐りづらくなるよ」という情報まで。それをビールに入れてみようと思いついたのがどこの誰だったのかは今のところ不明である。が、最初は邪道とされたその方法が次第に広まっていったのは間違いない。時を経て、一般的になったと確実に言えるのが、既に書いたように16世紀。

従って、「ホップは8世紀からビールに使われていた」ではなく「8世紀頃には既に栽培されていたホップが、どこかの時点でビールにも使われるようになり、16世紀には一般的になった」が正解だ。
また、「アルタイやコーカサスがビールへのホップ利用の起源」というのも事実誤認で、「ホップには食物の腐敗を防ぐ作用があるという情報がおそらく中央アジアから伝わり、ヨーロッパではビールに使用されるようになった」あたりが現時点での妥当な見方だと思う。

以上が簡単な纏めになる。

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あと、ビールが出来るメカニズムや基本情報については、以前も紹介した以下が分かりやすいです。

ビールの教科書 (講談社学術文庫) - 青井 博幸
ビールの教科書 (講談社学術文庫) - 青井 博幸

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おまけ

メソポタミア(シュメール)のビール作り …これビールじゃなくて麦焼酎じゃね?
https://55096962.at.webry.info/201504/article_2.html

エジプト・アビュドスで世界最古のビール醸造施設を発見!→最古じゃないです。
https://55096962.at.webry.info/202102/article_14.html

エジプトマニア、古代のイースト菌を培養してパンを焼く。
https://55096962.at.webry.info/201908/article_15.html