かつて、アラスカと交易をしていた知られざる誰かがいた…北極圏から15世紀ヨーロッパ製ビーズが見つかる

ある業界(?)でわりとインパクトのあるニュースとして受け止められていたこれ。15世紀ごろに作られたヨーロッパ製ビーズが北東アラスカの島嶼から見つかった、というニュース。ビーズはもしかしたらヴェネツィア製かもしれないが、今のところ特定はされていない。ただヨーロッパ製というのはほぼ確実と思われ、15世紀~17世紀頃のいずれかの時代に現地住民と交易していた「誰か」か存在した、ということになる。
こんな早い時代からアラスカと行き来していたルートは知られておらず、記録にもない、という。

European beads found in Alaska predate Columbus, controversial study claims
https://www.livescience.com/blue-glass-beads-predate-columbus-in-alaska.html

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プレ・コロンブス(コロンブス到達以前)という単語が出て来るが、この概念は私は好きではないのでそれほど気にしなくて構わないと思う。大航海時代やコロンブスを持ち上げるのはヨーロッパ人の悪い癖で、「コロンブスが新大陸を"発見"した」というのは古い概念だし、南北アメリカの歴史がコロンブスによる発見から始まると思っているのは単なる無知だからだ。真の発見者は、ベーリンジアを渡って北米に辿り着いた、数万年前の人であり、彼らの子孫は今も南北アメリカ大陸に散らばって暮らしている。

そして今回の発見に衝撃を受けている人たちが、ヨーロッパの記録を元にしていることも前提として考えておく必要がある。
ヨーロッパ人の常識では、アラスカ住民と最初に接触したのはロシア海軍に所属していたデンマークの探検家ヴィトゥス・ベーリングの1741年だとされているようなのだが、要するに日本や中国、極東ロシアの現地住民の記録は調べていないのだ。
記事と論文についているシナリオでも想定されているとおり、もしこのビーズがシルクロードを通過して中国に辿り着き、そこから幾つもの集団の手を経て「陸路で」アラスカまで辿り着いたのだとすれば、在り得るシナリオが組み立てられると思う。

ヨーロッパ人の地図では、アラスカとシベリアはそれぞれ、地図の左と右の端になってしまっていて分かりづらいが、日本の地図ならすぐお隣であることは判る。かつて最初に新大陸に到達した人々の使ったルートであることからも判るように、アジア側から新大陸に渡るのは、実はそれほど遠くない。
そして、メルカトル図法では南北の端に行くほど距離が引き延ばされてしまうという点にも注意してもらいたい。
北極圏のアラスカの地図は、できればグーグルアースあたりで調べたほうが歪みが少なくなる。今回の発見地は、シベリアからかなり近い海岸沿いなのだ。夏にシベリア側から渡っていく交易路があった可能性は、検討の余地がありそうだ。

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ここで予備知識なのだが、物々交換を伴う異文化との遠距離交易では、以下のような理由から交易品の選定が限られる。

 ・壊れにくく軽いものが適している
 ・単価が高く少量でも交換してもらえる
 ・文化圏の特性や流行に左右されず誰でも欲しがるものがよい

この点において、ガラスビーズは非常に優秀な交易品となる。何しろ水に濡れても大丈夫だし腐らない、壊れづらい。また穴のあいているものであれば大量に運びやすく、持ち込んだ先の文化圏ではアクセサリーとして重宝されやい。見た目も綺麗なので好まれることが多い。
そのため、新大陸との交易ではガラスビーズが採用されることが多く、特にベネチアン・グラスはインディオの遺跡から多く出て来る。考古学者にとっても有難い存在で、長年土の中に埋もれていても形が崩れたり腐ったりすることなく、出土すればある程度時代の目安がつく指標ともなっている。

15世紀以降の新大陸西岸であれば、この手のビーズが出て来ることは珍しくない。
ただ今回の発見は、本来発見されると想定されていない北西岸だったのだ。

これらのビーズは三カ所ほどの遺跡で見つかっていることから、おそらくまとめて海岸沿いの交易拠点で取引され、そこから各地に分散していったと考えられている。交易は相互の取引なので、アラスカ側はビーズと交換に何かを供出しているはずだ。アラスカでしか取れないもの、たとえばアザラシの皮とか、カリブーの肉とか。セイウチの牙とかイッカクの角みたいな、アラスカの住民からするとありふれていて、ビーズを持ち込んだ側にとってはとても貴重なもの。それは、遠路はるばる出向く労力を差し引いても儲けの大きい品であったはずだ。
誰が交易者であったかは、この取引された品を探せば判るかもしれない。

また、場所的にあまりに北の方なので、船が偶然難破して流れ着いた積み荷というセンは排除して構わないだろう。北極圏に偶然迷いこむ船はまず無い。

現時点で判っていることは少なく、「誰かが」まとまった数のヨーロッパ製ビーズをたずさえ、確かにそこに辿り着いていた、ということしかわからない。
けれどこれは、今まで語られることのなかった、知られざる物語の扉を開く発見なのだと思う。