古代エジプトで流行ったものは天然痘だったのか。それとも「サル痘」だったのか。

前知識として、古代エジプトのファラオ、ラメセス5世のミイラには、天然痘らしき疱瘡の跡が見つかっている。
そのため古代には既に天然痘が存在し、このファラオは天然痘で亡くなったのでないかとされることがある。死亡年齢が40歳未満とそれなりに若く、他に目立つ外傷などが無いことからそのように言われているのだが、実際に天然痘で亡くなったかどうかは実は確定していない。そして、そもそも疱瘡の跡が天然痘なのかどうかも最近では論争の的となっている。

切っ掛けは、天然痘ウィルスの進化の研究が進んだことだ。

ウィルスも生き物なので、遺伝子は時間が経つごとに変化していく。しかし天然痘の場合、どうもそれほど差異がなく複雑化もしていないため、誕生してからそれほど時間が経っていないのでは。という説が出て来た。


天然痘の起源に新説、ミイラのDNA分析で判明
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/121300479/

一方で、ヴァイキングの時代には既に天然痘が存在したという研究もあり、現代に繋がらない、既に絶滅してしまった様々な変異種が存在した可能性も示唆されている。

ヴァイキングが天然痘に悩まされていた可能性が、遺体からのDNA回収で示唆される
https://55096962.at.webry.info/202009/article_6.html


というわけで、古代エジプトに本当に天然痘が存在したのか、それは今知られているものとどの程度同じ、あるいは違っていたのか、今の段階では分からない。ヴァイキング時代は1000年前、ラメセス5世が生きていたのは3000年以上前である。変異が早い病原体の場合、これだけ年代が別れているとかなり変わっていそうな気がする…。

そして、天然痘と似たような膿疱は、実は牛痘やサル痘といった近縁の病気でも出来る。そもそも水痘であっても重症化していれば跡だけでは区別がつかない。

中でもサル痘は、大元の宿主がアフリカ原産のリスで、さこからサルに感染し、さらにヒトへと宿主を移していくことが知られている。近年ではコンゴ民主共和国で流行して多数の死者を出した。また、アメリカでも輸入ペットが持ち込んだものから集団感染が発生している。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.html

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…そう、アフリカなら、もし天然痘でなくともサル痘に感染する可能性を考えなければならないんである。
そして中間宿主サル。新王国時代のファラオたちはアフリカ内陸からキリンやヘビクイワシ、珍しいサルなどを輸入していた。

一般庶民なら可能性は低いが、ファラオならサルからの感染はむしろ在り得る可能性として考えられる。

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ただしこのウイルス、人から人にはほとんど感染しないという。あくまでリス→サル→人のルート。そして死亡率も10%未満のようで、それほど高くはない。
もしもサル痘が古代にもあり、サルを介して時折流行るような病気だったなら、輸入もののサルを愛玩動物としていた貴族や王たちにとってはちょっと悩ましい「神罰」だったかもしれないなあ、と思う次第である。



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https://55096962.at.webry.info/202012/article_15.html