メモがわり: 「古代エジプトの楽譜」として紹介されていたものの正体

古代エジプトの音楽は楽譜が残っていない。

にも拘わらずネット上には謎の楽譜が出回ってるよね? あれ何なの? って話から始まった話。
結論から言うと、エジプトのものだとしてもおそらくローマ属州時代のもので、「古代」の楽曲を記したものではなく、そもそも楽譜なのかどうかも突き止められなかった…。

問題の「楽譜?」はこちら。
ぱっと見て「ん? なんか文字がアルファベットになってるんだけど…」「パピルスじゃないよねこれ」って気づくところ。

Ancient-Egypt-700x678.jpg

辿っていくと、ほとんどの情報がこのへんに収束していく。
https://continuo-docs.tumblr.com/post/35045558160/ancient-egyptian-music-notation-from-a-set-of-6

・6枚の羊皮紙のセット
・ドイツの音楽学者ハンス・ヒックマン( Hans Hickmann)が彼の1956年の本Musicologie Pharaoniqueで紹介したのがソース
・5世紀から7世紀のもの
・羊皮紙に書かれているのはコプト語で、賛美歌という意味に読める
・エジプトの作曲家ハリム・エル・ダブ(Halim El-Dabh)の楽譜や絵画に大きな影響を与えた
・おそらくメトロポリタン美術館に収蔵されている

…というわけで、この情報が正しければビザンツ(東ローマ)による支配の時代の、コプト教の宗教音楽に関わる記録ということになり、古代エジプトの楽曲ではない。

ただ、メトロポリタンで公開されている収蔵品リストの検索では、この品を見つけることが出来なかった。


というわけなので、これは「古代エジプトの楽譜」ではない。少なくとも「古代エジプト」ではなく、コプト語が書かれていて、かつ素材が羊皮紙という次点で、初期キリスト教(エジプトではコプト教)の遺物と言うべきだろう。

そしておそらく、これは古代エジプトの時代に使われていた記録法とは異なっている。
何故かというと、パピルスだと、繊維の都合上そもそも円を書くということが難しいからだ。円に色を塗って何かを記録するという発想自体、羊皮紙に書くようになった時代以降のものなんだ…。



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紀元前1000年以降、エジプトには色んな異国人の支配者たちがやって来て、移民も多くなる。
そのため、たとえエジプトで発見されたとしても必ずしも「古代エジプト」の遺物ではないこともある。

例)
古代エジプトで最古の20面ダイス見つかる、闇のゲームか?! →それギリシャの遺物だから
https://55096962.at.webry.info/201810/article_28.html

まず使われてる文字を見るのはとても大事。紀元前500年のパピルス紙でも書かれている言葉がヘブライ語で、ユダヤ人入植者が書いたものでした。みたいなのも発見されたりするからね。