引きこもり生活と洞窟の絵。~脳はアイドリング出来ない

大昔の人たちが、洞窟の岩絵をどうやって描いたのか、という話をしたい。
絵そのものはよく知られているが、道具や使われた顔料については知名度が低いのではないかと思う。実は洞窟に絵を描くのは、現代人が考えるよりとっても大変な作業なんである…。

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以前日本でラスコー展をやった時に、そのへんの資料は一通り展示されているが、ラスコーをはじめとする洞窟壁画を描いた人々(クロマニヨン人)は、顔料を砕き、指や木の枝で線画を描き、あるいは石で彫り込んで浮き彫りにして絵を作った。暗いところではランプも使っていたようだ。これは現代人からすると簡単な娯楽に思えるが、当時としては結構な手間がかかっている。
お店で画材を買って来るわけにもいかないのだから、まず自分で画材となる材料を集めるところから初めなくてはならないのだ。

顔料例
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ランプ
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ざっと考えて、絵を描くまでには、以下のような手順が必要だ。

・絵筆
動物の毛をまとめた筆を作る、または絵筆として使える棒や石の欠片などをみつくろう

・絵具
顔料の材料となる石を集めて砕き、粉にする
※ラスコーの場合、材料はラスコー洞窟の近辺にはなく、近くても数十キロ先だそうなので、狩りの途中に立ち寄って拾い集めておくなどする必要がある。黒だけなら墨でもOK

・描くところ
キャンパスとなる壁面を選び、凹凸などを整える
薄暗い場合はランプなどを準備する

これらの手順を踏んだ先に、ようやく実際に「絵を描く」という段階になる。
つまりは、ヒマなとき、余裕のある時にやる娯楽ではあるのだが、とてつもなく時間と手間暇をかけてやっている趣味 とも言える。

忙しい現代人は、つい自分たちの感覚で「なぜ昔の人はこんな時間をかけてまで…」と考えがちなのだが、逆に考えるんだ。もしかしたら 洞窟から出られなくて、めちゃくちゃ時間余っててヒマでストレス溜まる時期に時間を潰すためにやってた可能性 も、あるのではないだろうか。

ちょうど今年、そういう状況を体験しなかっただろうか?
そう…コロナによる自粛&ロックダウンだ。

家から出られずヒマでしょうがない、何かやることが欲しい…そう思わなかっただろうか。あなた自身や周囲の人たちは、突然積みプラモ作り始めたり、手芸始めたり、部屋のリニューアル始めたり、庭仕事を始めたりしていなかっただろうか?




脳はアイドリング出来ない。

身体がヒマになっても、人間の脳はヒマに合わせて勝手に休んではくれない。

起きている限り、脳は常に動き続ける。思考エネルギーを作り出す。仕事が忙しければそれは仕事だけで消費され、あとは頭使わずにテレビ見てるだけとかしかできなくなる。外出など消費する選択肢がたくさんある場合も、脳が刺激に対して反応していられるので暇を持て余す状態にはならない。
しかしそれほど忙しくなかったり、外に出て新しい刺激に触れることが出来なくなったりすると、脳はヒマすぎてエネルギーを持て余すようになる。

というわけで、その余ったエネルギーを向ける先としてインドアの趣味を持っていない人が、頭を使い、かつ時間も食う手芸などの趣味にハマりやすい、というのが人間の性質だ。寒い北国の人が音楽にハマったり木彫りやったり、長期航海中の船員が手芸やってたりするアレだ。


洞窟の岩絵は手間暇がかかる。しかし時間潰しにはもってこいだ。石砕いて絵具作ってるだけで時間が過ぎる。
古代人のやたら手間暇かけた芸術作品は、実は冬や悪天候で狩りに出られないなど、「めっちゃ暇な時期があったから」生まれたもので、「なぜこんなに時間をかけて…」の答えは、「時間を消費したかったから」かもしれないのだ。

芸術とは、生活に余裕がある時に生まれるものだというが、精神的な余裕や経済的な余裕はぶっちゃけ必須のものではない。一番必要なのは「時間」、とにかく暇で何もできない時間があれば生まれるものだと思う。