ここぞとばかりにヴァイキング本を売り込んでくるナショジオさん…

ナショジオが出しているので写真は良し、図も判りやすい。年表は無いし、ちょっと話盛りすぎてるな感のある部分もありつつ、無難な感じにまとまっている一冊。(アサクリシリーズの最新作がヴァイキングだからちょうどいい時期にぶつけてきたわけですね…わかりますよそういう…アレ…。ゲームのほうはちょっと内容が微妙で全然進めてないけど…。)

バイキング 世界をかき乱した海の覇者 (ナショナル ジオグラフィック別冊) - ナショナル ジオグラフィック
バイキング 世界をかき乱した海の覇者 (ナショナル ジオグラフィック別冊) - ナショナル ジオグラフィック

不満点があるとしたら、表紙のタイトルにばーんと書かれている「世界をかき乱した」というキャッチコピーが大げさすぎるということ。せいぜい西と北ヨーロッパだけで、東に進出していった人たちは大国の前に傭兵として雇われるなどちょっとした役割のみ。ロシア開拓に出かけて行った人たちも広大なシベリアの大地からすれば一部に限られる。パリ包囲戦も一過性のものだし、定住したヴァイキングたちもいずれ時代の流れとともに現地に同化して海を捨てるので歴史を動かすほどの大きな流れは引き起こせていない。北米への進出もグリーンランド植民も結局は短期間だけなので…。

それと、農民としてのヴァイキングの側面はほとんど触れられていなかった。これはあまり発見物がないことや地味なこともあると思うが。最近発掘されたビール工房の跡とかは入れても良かったんでは。法律の話とかも無かったかなぁ。まあ薄い本なのと、たぶん「遷都」としてのヴァイキングを前面に出したかったんだろうな、と思ったのでそこは…。


改めて本を見てみると、ヴァイキングとケルト人は良く似ているなと思う。
これは美術や神話、荒っぽい気性が共通するというだけではない。名前は有名だしビジュアル的にもキャッチーなのでよく知られているけれど、実態には意外なほど分からないことが多いということ。あちこち旅して広がっていったけれど、そのまま現地に同化して消えてしまうこと。征服した土地に国を作るなどの政治面が弱く、どちらかというと個人主義であること。名誉にこだわる独特の価値観と死を厭わない思考。そして歴史の大枠に影響することなく一過性のものとして消えていくこと。

影響を何も残さなかったわけではないけれど、たとえば冒険者として海洋に乗り出した結果、北アメリカまで到達していながら、その記録も航路も忘れ去られてしまったことを考えてみたい。後世に残らなかったので一過性のものとしか評価できない。彼らの遠征にしても、フン族などの騎馬民族が引き起こした大々的な人口移動を前にすると、それほどの影響は及ぼさなかったし、イギリス各地の沿岸を襲いまくってた時期にしても、いくつかの町や修道院が廃墟になったくらいなのでそれほど影響を大きく見積もれない。

たぶん母数がそれほど多くなかったからなのだろうが、歴史の狭間に消えていった人々だなぁ…という感じ。日本でいうとそのまんま倭寇ではないかと。


ヴァイキング時代は、短期間で終了する。
それは彼らが略奪に行ける無防備な沿岸部が無くなったことや、先に出かけた人々が住み着いて新たな入植地がなくなったこと、彼らがキリスト教化して価値観が変わったこと、気候が好転してヴァイキング行に出かける必要が薄れたことなどが考えられている。たぶん複合的な要因なのだろう。

過ぎ去りし野蛮な時代にロマンを抱くのはどこの国も同じ。日本でいうと戦国時代の歴史がやたら人気があるようなものだ。
そんな時代に「戦士」としての夢を見る人にはいい一冊だと思う。


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オマケとして、途中に出て来たカナダの北極圏にヴァイキングが到達したか否かの論争についてはこちら

極北の糸紡ぎの常識が変わる…パレオ・エスキモーはヴァイキングに教わったのでは無かった
https://55096962.at.webry.info/201807/article_26.html

ベルセルクの絵だと言われていた黄金の角杯のレプレカに関する資料はこちら(なぜレプリカしかないかという理由もここに書いてある。盗難されて本物が消失したからなんだ…)

その図像、ほんとにケルト固有なの? グンデストルップの大釜とガレフーズの大型角杯
https://55096962.at.webry.info/201907/article_25.html

あとビール工場

「農場主はビール醸造に失敗したら国外追放な」ヴァイキング時代のビール醸造と焼けた石の話
https://55096962.at.webry.info/201706/article_22.html


あとサガの用語辞典もついでに
http://www.moonover.jp/2goukan/north-s/word/index.htm