アフガンで凶弾に倒れた中村医師の本「アフガニスタンの診療所から」

著者は、昨年末にニュースになっていたアフガニスタンのために尽くし、凶弾に倒れた医師の中村 哲 氏。しかしこの本は最近の話を取り上げたものではない。「名著復刊」という帯がついているように、復刊されたかなり古い本だ。書かれているのは1980年代から1990年初頭あたりまでの話で、文庫版としてのあとがきも2004年となっている。つまりは本の中に書かれている世界は、今から30~40年(!)も前の話なのだということに注意して欲しい。

アフガニスタンの診療所から (ちくま文庫) - 中村 哲
アフガニスタンの診療所から (ちくま文庫) - 中村 哲


今のアフガニスタンの話ではない。1980年代の世界には、インターネットはおろか携帯電話すらもない。パソコンなにそれおいしいの。電卓と炊飯器がようやく一般に普及し始めたくらいの頃じゃないかな。中の人でも、幼少期の記憶で辛うじて引っかかったのは本の最後の方に出て来る湾岸戦争くらい。そんな感じの年代物の本である。

最近のニュースだとアフガニスタンといえばタリバーンだの、アメリカ軍が撤退するしないだのいう話が流れているが、それよりもっとずっと以前の、イギリスとロシアが代理戦争をさせていた時代の話がこの本に書かれている時代だ。イギリスのインド統治が終了し、なんとなく浮いていたアフガンにソ連軍が進行(まだソ連が崩壊していない時代!)し、そのまま不安定な状態で放置した地域。国際社会の世論の役にたたなさや、お題目ばかり唱えるNGOの実体、現地で失墜した国連の権威など、厳しい現実が淡々と描き出されていく。

しかしそれは、もう30年以上も昔の光景だ。
おそらく今も変わっていない部分はあるのだろうが、変わった部分もあるはずだ。というか、無ければおかしい。なぜなら、中村医師はその、努力によって「変えた部分」ゆえに狙われたはずだからだ。

本を読んでいて思ったのは、バブル期を体験した世代特有の概念が生きているなぁということだ。
「日本は忙しなさすぎる」「国際化が叫ばれて久しいが、実態はどうだろうか」「世界を知らなさすぎる」。こうした論調は、私より年上の世代からはよく出て来る。

しかし今の若者たちは生まれた時からインターネットを持っていて、情報の洪水の中を生きている。オジサンたちよりよっぽどよく世界を知っているし、国際化もされている。(その上で日本の良さや特色も判っている) 忙しないなりに、忙しいことに慣れているぶん余裕もある。端的に言うと、単純な記録だけならいちいちメモ帳開いて手書きであれこれ書かずに、写メで一瞬で終わらせて時間を作るような工夫が出来る。

私などはちょうど中間層なのでどっちの言いたいこともまぁなんとなく判るのだが、今の若い世代がこの本を読んでも、あんまり共感しなさそうだな…と、少し思った。
何しろ「電話一本でカタログ通りのものが届けられる」のを気軽すぎるなどと言っているのだ。電話! いまどきテレビショッピングなんてするのは、それこそバブル期世代以上の高齢者ばかりなのではないだろうか…。今やネット通販の時代だし、何も知らない人が気軽にボランティアに応募してくるのが嫌なら、ホームページを作ってインターネットで募集要項が見られるようにしておかなきゃそりゃダメでしょ。という世界だ。時代が違う。本当に、色々と…時代が違う…。


それでも、この本は面白い。
淡々とした口調の中に熱を感じるし、何より、真に迫っていると感じる部分が大きいからだ。
協力してくれない日本の「世間」、役に立たない他国のNGOや国連などの組織に苛立ちを感じつつも、それらを糾弾することで留飲を下げて終わりにはしていない。だから愚痴っぽくもなく読める文章になっている。

それを思いっきり台無しにする一番最後の「解説」と称した他人の書いた数ページは、だから、読まなくていい。そこは完全に無駄だ。

それ以外の部分については、「30年以上前の話(歴史)」だということを念頭に、一度読んでみる価値はある、と思う。