古代エジプト語に「虹」という単語はあるのかというと

「虹」に関する神話は世界各地にあり、多くの国で蛇と結びつけられている。

そんな話を読みながら、ふと、「雨降らないエジプトで虹ってあったっけ…」と思い出していた。結論から言うと、虹という単語自体は存在する。しかし用例がそんなに多くなく、元々は「蒼穹」、つまり天に関係する単語でしかなくて、蛇と結びつけられることも、何か特別な神話が作られたという証拠も見当たらなかった。

言葉としては「ペジェト」、元々の意味は「弓」だそうなので、天に弓なりになっている姿から来ているのだと思われる。古王国時代にはまだ虹という意味がなくて、中王国時代の用例では虹とみられるものがあるとのこと。日本語の「虹」には虫という字が入っていて何やら生き物のようなニュアンスがあるが、古代エジプトでは弧を描いているという見た目だけのイメージなのが面白い。それだけ、遭遇する機会も少なかったのだろう。

エジプトで虹が見えるとしたら、ごくまれに降る雨か、地中海に近い北部の冬季だろうか。


ちなみに古代エジプトには「雨」や「嵐」という単語はいちおう、ある。
ほとんど降らないとはいえ一応は降る時もあるからだ。

「氷」や「つらら」という言葉はない。
「雪」については外来語からの借用語でセレクという言葉が存在するようだが、これはパレスチナやシナイ半島ではごくたまにうっすら雪化粧することがあるからだろう。


参考: 6年前にめちゃくちゃ雪降った時の記事

【悲報】関東は水曜日も雪の予報! というわけで皆、セト神に祈るんだ!
https://55096962.at.webry.info/201402/article_20.html


エジプトの天候を現す言葉は、夏の暑さや砂嵐のほうに特化されている。
シベリアやカナダ北部など、寒い地方では雪に関する単語が多いのと対照的だ。そしてよく考えたら北の寒い地方にも虹って言葉が見つからないし、そもそも蛇がいない。
虹の神話も、蛇との関連も、たぶん東西に広がる温帯地域を中心とした概念なのだろう。




*だいぶクセのある「専門家が気合入れて書いた同人誌」みたいなノリの本だが、調べものしたい人にとってはいい本だと思う。辞書的な使い方をしないと、お読みものとしてはあまり楽しくはない。

古代エジプトの動物 要語の語源つれづれ - 長谷川 蹇
古代エジプトの動物 要語の語源つれづれ - 長谷川 蹇