ナショジオ番組「ソロモン王の秘宝」、ソロモン抜きにすると面白かった

タイトルがソロモンだからヒマな時に見ればいっか…と思ってたらがっつりエジプトだったので「?? タイトル詐欺かよ!」ってなったやつ。
いや、というかこれ、ソロモン関係無しに番組作ったほうが正解だったんじゃ…?

探求!キング・ソロモンの秘宝
https://natgeotv.jp/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/2743

番組は、旧約聖書に描かれるソロモン王の時代の真実を追い求める、という触れ込みのもと、実際は史実としての裏付けの出来ないソロモンの王国の幻影を、なんとかして現実の世界に投影しようと苦心惨憺している妙な構成になっている。しかし現実に取り上げられている遺跡がソロモン全く関係ないので噛み合わない。舞台となっているのは、死海地溝帯にあるヒルバト・アッナハスという遺跡。古代の銅の精錬所跡で、呼び名の由来はアラビア語で「銅の廃墟」だそう。その名のとおり、銅を精錬したあとのカスがいっぱい落ちている。

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ここはイスラエルからラクダで3日ほどの距離にあり、近いため、ソロモン王が用いたという銅の出所ではないか、というところから番組がスタートする。しかし出てくるのはエジプトのスカラベ(フンコロガシの護符)やエジプトの神殿。それ以外には、イスラエルと隣接した地域に栄えることになるエドム王国の陶器。

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エドム王国は紀元前10世紀ごろから台頭してくると考えられている勢力で(番組では紀元前7世紀と言ってたが…)、遺跡から出てくる遺物の年代から、ここが稼働していたのは紀元前11~10世紀頃とされる。
紀元前13世紀頃にこの場所のエジプトの支配権は紀元前12世紀には崩壊していたはずで、エドム王国が出てくる以前に空白がある! ちょうどソロモンの王国の栄えた時代だから、ワンチャンあるのでは?! みたいな感じで持って行きたかったようなのだが、出土品はすべてエドム王国のものなので、普通に考えればエジプト→エドムの順にここの支配権が移り変わっている。イスラエルの絡む隙間がない。ついでに言うと、紀元前1200年ごろに劇的な滅亡をしたのはヒッタイトだけで、エジプトは別に滅亡していないし、むしろ全盛期だ。(衰退するのはそこから100年くらい経ってから)

その意味で、この番組はタイトルと作りをそもそもからして間違えている…。
いや、ていうか、エドム王国って紀元前10世紀頃にいったんイスラエルの支配下に入って150年後くらいに反乱・独立してるんでちょうどその時期なんですけど…その話が出なかったよね…? 前8世紀からはアッシリアの支配下だけど、それも出てこなかったような…。そしてそもそもの話をすると、エジプトがシナイ半島やカナン地方など遠方の高山を採掘する場合、監督役にエジプト人をつけるだけで実際の労働力は現地調達だったと思われるんですよ。(現地人が銅山に残したラクガキなどからして)

つまり、エジプトが支配していた時代から、この銅山で働いた実際の労働力はのちにエドム王国を築くエドムの人々だったんじゃないかなと…。そのうえで、支配勢力がイスラエルだったりアッシリアだったりと次々変わっていった、と解釈すべきじゃないだろうか。だとすれば、エジプトの神殿があるのも、出てくる陶器や遺物がエドムのものばかりなのも、全て問題なく繋がる。

そして、遺跡が放棄された理由も想像がつく。紀元前10世紀以降、東地中海は本格的な鉄器時代に突入するからだ。最初は粗雑なものしか作れず、農具などにしか使われていなかった鉄製品が武器にも使われ始め、その比率が青銅と逆転していくのが紀元前10世紀。材料の錫が限られた産地でしか産出されず、作るのが大変だった青銅は、少しずつ重要性を失っていくのだ。

番組作るならそこだよ、そこに焦点を当てるんだよ! 出資元の意向とか色々あるかもしれないけど!!
鉱山と絡めて金属器の栄枯盛衰を取り扱ってくれたら、もっといい番組になっていたと思うんだ…。



あと、さらっと流されてたけど、金属による環境破壊と健康被害はもっと取り上げられてもよかった。
土壌に今も残る金属。銅はまだいいが錫の残存量がとんでもなく多くて、精錬所付近は今も住むのに適さない。

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近くの墓に残る人骨の年代測定とともに、歯などに含まれる銅の量を測定すると、とびぬけて高い数値が出ている。
これは銅中毒になるやつですね…?

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人類が金属器を手にしたことは、古代における産業革命と言われることがあるが、環境破壊や健康被害は既にその頃から始まっている。
たとえ金属器を手にしなくても、絵を描くために顔料を砕けば肺に入って健康を害するし、獲物を焼くための焚火を起こすには森の木を切るし、農耕牧畜からしてそもそもが自然を大きく変えている。人間と自然が共存するお花畑的な牧歌的な世界なんて、何千年何万年さかのぼっても無いと思うんですよ。破壊の程度の違いだけで。
その業を理解した上で清濁併せ呑むのが歴史理解だと思うんですよね。