神殿は「建てる」ものではなく「刻む」もの。ナバテア文化の建造物

ナバテア文化/文明とは、サウジアラビアの砂漠に一千年に渡って継続した遊牧民の文化のことを指す。起源は不明だが、イエメンにあったサバ王国の子孫という説もあるらしい。だが、期限が一つである必要はない。砂漠に集まった遊牧の人々の一部が定住をはじめ、最終的にナバテア王国となったのだ。

そのナバテア王国、遊牧の民が神殿を「築いた」と表現されるのが一般的だが、実は築いてないなということにふと気が付いた。
彼らの建造物は、石を積み上げるとか、木を組むとかではなく、岩を直接刻むという方法なのだ。建造物ではあるが、築いてはいない。

代表例として、首都ペトラの有名な神殿を思い出してほしい。
見ての通り、岩を直接削っている。よそから石を持ってきたわけではない。ちなみに遺跡内にある階段や水路も岩に直接掘り込んで作っている。

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これは世界遺産に登録されたマダイン・サーレハの遺跡でも同じだ。
模様から柱まで、岩に直接掘り込んである。これが彼らのやり方なのだ。定住して神殿を築いた、という字面から想像されるものとはちょっと違う。そこに岩の形を変えて彫刻している。

https://www.afpbb.com/articles/-/3205345?pid=20843468

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これは、定住民の持つ建築技術を学んだのではなく、元々遊牧民の持っていた「集合場所の目印に目立つ岩に模様を彫る」というような技術が、もうちょっと手の込んだものに進化して、「岩をくり抜いて墓や神殿として造った」結果だと思う。定住を知らない遊牧民がいきなり全く新しい新技術の概念を学んで神殿を建築したわけではない。というか、これだと、大規模建築の出来る技術者を連れて来なくていい。 岩を垂直に積み上げて柱を作るのも、屋根を載せるのも、かなり高度な技術力を必要とする。しかし岩に直接、神殿風の模様を彫り込むのなら、岩を彫刻する技術だけで欲しいものがすぐ手に入る。技術レスなんである。

ずっと、「遊牧民がいきなり神殿築く技術を手に入れるって謎だよなぁ…」と思っていたのだが、いきなり謎が解けてしまった(笑)
そんな技術は手に入れていない。というか必要ない。元々持ってる岩絵の技術の発展だけでいけるわ、これ。いやー長年写真見てたのになぁ、気づくの遅っせぇ。


なお、岩を刻むという建築物は、エチオピアの岩窟教会やエジプトのアブ・シンベル神殿、バーミヤンの巨大仏(消滅済…)など、世界各地に存在する。頑丈な岩盤と掘る道具さえあれば建築物を作れる。楽。いや手で岩掘るの大変だけど。パルテノンみたいなの作るよりは少人数でいける。
ナバテア人の選択は、実に理にかなったものであった。


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「神殿から始まる定住生活」アンデス文明の謎とナバテア文明のリンク
https://55096962.at.webry.info/201509/article_3.html

サウジアラビア、考古学者に門戸を開く。未調査のナバテア人の領域がついに…!
https://55096962.at.webry.info/201910/article_7.html

ナバテアの資料が少なくて困るが、そもそもあんまり研究されてないからなので仕方がない。
あと、ナバテアの遺跡がコーランで不吉な土地として表現されてしまっているせいで、サウジアラビア国内での扱いが良くないという事情もある…。